自由を求めるヒロインと人魚の王子の壮大な愛が展開する中国ファンタジー時代劇『馭鮫記』

『馭鮫記』は、「前編：月に君を想う」(全22話)と「後編：月に愛を誓う」(全20話)の2部構成となる。配信視聴数500億超えを記録した『永遠の桃花～三生三世～』などのディリラバと、『花様衛士～ロイヤル・ミッション～』などのアレン・レンという、注目のスター同士が共演したことでも話題だ。

舞台となるのは、天仙と地仙に分かれた仙界。南方にある万花谷に暮らす紀雲禾(きうんか)は、厳格に秩序を守る天仙の中でも精鋭とされる、掟を破る地仙を御する御霊師。そんな彼女が、捕らえられた鮫人(こうじん)の長意(ちょうい)を教化する役割を担うことになる、というのが物語の始まり。

御霊師や地仙を支配する仙師の寵愛を受ける仙姫が長意を臣服させたく、その教化役に自ら名乗り出たのが、ディリラバ演じる雲禾。教化できたら何でも望みを叶えるという褒美が目当てだった。雲禾は、万花谷を出て、自由になることを夢見ていた。

鮫人というのは、『斛珠＜コクジュ＞夫人～真珠の涙～』など近年の中国ドラマや映画でよく見かけるようになっているが、中国神話にも登場する生き物で、いわば人魚のこと。世界各国に残る人魚伝説の中でも有名なアンデルセン作の童話では姫だが、本作では王子だ。

アレン演じる長意が初めて姿を見せる時、その美しさに見惚れてしまう。人魚ということで人間の姿をした上半身は、鍛えられた肉体美。一方、魚の姿の下半身は、CGでキラキラと輝く立派な尾。しばらくして、もともと鮫人は陸にいて脚があったということで、脚が“生えて”くるのだが、その美しい尾も仙姫が永遠に海に帰さないために断つことを命じている一つ。さらに尾と並んで命ともいえる鮫珠(こうじゅ)といわれるものも手に入れたいと思っていた。それらがどうなるのかもポイントになっていく。他にも鱗が解毒に効いたり、涙が真珠になったり、たくさんの特殊能力を持っている。

「心を御することに誰よりも長けている」という雲禾は、長意の心に寄り添う“ふり”をして、役目を果たそうとする。ところが、初めは粗暴に見えた長意の、誇り高く、純粋で優しさに満ちている真の姿を知るにつれ、惹かれていく。ただ、天仙は地仙との恋はご法度で、万花谷では特にこの禁令が遵守されているというのである。

禁断の恋、さらに雲禾の数奇な運命が絡み合い、壮大な愛と戦いの物語へと展開する。前編では愛した長意を守るために決死の策を講じる雲禾。後編では、雲禾に裏切られたと思う長意との切なさいっぱいの恋模様と、仙界の平和を保つための戦いが重なり合う。手が込んだ映像美と華麗なアクションと共に、グイグイと引き付けられる。

有能で、勇敢な雲禾。そんな雲禾が時に戸惑うほどのピュアさだが、強さを秘めた長意。美しい2人の恋は格別だ。心通わせ合うまでのドキドキ感、つらすぎるすれ違い、けれども深いところで結ばれている愛おしさと、運命ゆえのはかなさ。キスシーンといえば総じてロマンティックなものであるが、2人の場合、後編で描かれるキスシーンは、ある理由からとても切実で、愛と悲しみを伴う。

そんなキスシーンを始め、ディリラバとアレンがそれぞれのキャラクターの心の成長と機微を丁寧に演じ、魅力的に見せる。愛を前にして数奇な運命を受け入れる雲禾を、ディリラバの美しくはかなげな表情が盛り立てる。かわい過ぎる純真なところから、深く愛したゆえの反動がありつつ、抑えようとしても抑えられない愛を見せる長意には、アレンの端正な顔立ちと優しさがあふれ出てくるような瞳の美しさで、いつしかとりこになってしまうのである。また、2人の周囲のキャラクターたちの恋模様も見どころ盛りだくさん。見る者の心を捉えて離さない愛のドラマチックさに包み込まれるはずだ。

（文・神野栄子）