そこで今回は “法廷劇”がメインのヨーロッパ発映画を厳選。法廷で繰り広げられるドキドキハラハラの展開に引き付けられるとともに、真実とは、法とは、そして裁判とは、についても見えてくる。
ヨーロッパのサスペンス映画4選はこちら!
落下の解剖学
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第96回アカデミー賞ではフランス映画で57年ぶりの快挙となる脚本賞を受賞し、緊迫した空気が漂う構成力はお墨付きともいえる。人里離れた雪深い山荘で男が転落死し、発見者は視覚障がいのある11歳の息子のみ。初めは事故かと思われたが、やがてベストセラー作家である妻に殺人容疑がかかる。妻はかつて交流のあった弁護士に依頼し、法廷で無実を訴える。
上映時間の3分の1ほどからメイン舞台が法廷へと移るのだが、主人公の「私は殺していない」に対する弁護士の「そこは重要じゃない」「問題は君が人の目にどう映るか」という言葉が色濃く心に残る。判事や市民から選ばれる参審員への印象ということだ。それはそのまま私たち観る者の視点ともなる。
厳しい検察側と弁護側のやり取りが進むにつれて、息子を含むさまざまな人の証言や証拠品として提出された音声などでつまびらかになるのは夫婦の真の関係。事件の真実を問う裁判が、夫婦の“解剖”となって見えてくるドラマもまたサスペンスフルだ。真実について見終わった後も考えさせられる、切れ味ある展開が待っている。
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コリーニ事件
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原作はドイツの著名な弁護士で作家でもあるフェルディナント・フォン・シーラッハのベストセラー小説。その中で描かれた“法律の穴”“戦後ドイツの不都合な真実”が反響を呼び、ドイツ連邦法務省が調査委員会を立ち上げることになった話題作だ。
主人公の新米弁護士は、ある殺人事件の国選弁護人に任命される。30年以上ドイツで暮らしているイタリア出身の被告人は経済界の大物である実業家を殺した罪に問われていたが、被害者は主人公が幼いときの父親代わりのような存在である恩人だった。弁護人を辞任しようとした主人公だが、恩師の教授に「弁護に徹しろ」と助言されて続けることに。やがて接点がないように見えた被害者と被告人の間に驚くべきつながりが見つかる。
初めは裁判前の顔合わせのような段階でローブ(法服)を着ていることを判事に指摘されるほど新人らしさ全開だった主人公。被害者へ抱く恩に揺れ動きつつ、弁護士の矜持に基づいて職務を遂行し、法廷にざわめきが広がるほどの真実、そして裁判に関わる者のみならず社会へも波及する、法の重大な落とし穴を指摘するに至る様が熱い。
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サントメール ある被告
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第79回ヴェネチア映画祭で銀獅子賞(審査員大賞)と新人監督賞をW受賞した本作。セネガル系フランス人女性監督のアリス・ディオップは、実際の裁判記録をそのまませりふにする斬新な手法を取り入れた。
主人公の若き女性作家が傍聴する裁判の被告は、生後15カ月の娘を海辺に置き去りにした殺人罪に問われた女性。彼女は、セネガルからフランスに留学し、完璧なフランス語を話す才女だが、裁判長に「なぜ自分の娘を殺したのですか」と問われると、「分かりません。裁判で知りたいと思います」と答えるところからグッと引き付けられる。
実際の法廷に響いた言葉に耳を傾けるうち、作品の“視聴者”から主人公と同じく裁判の“傍聴人”であるかのような感覚に陥る。法廷劇でありつつ、ジェンダーや差別感情などの社会問題、そして母と娘の関係という深遠なテーマが映し出されていく。
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シチリアーノ 裏切りの美学
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実在したイタリアの大物マフィア、トンマーゾ・ブシェッタを描く本作。上映開始1時間ちょっと過ぎから始まる法廷劇が見どころだ。
マフィアの抗争が激化した1980年代のシチリア。家族や仲間たちの命が奪われた中、マフィア撲滅に執念を燃やす判事から協力を求められた主人公は、掟に背く行為ながら、組織に抱いた思いから応じることに。その心理の変化を捉えたあとに広がる法廷の光景に驚かされる。判事の前にたくさんの弁護士がいて、さらにその後ろに備えられたいくつもの鉄格子で仕切られた部屋に被告となるマフィアたちがいる大裁判なのだ。
口を縫って話すことを拒む者の出現に始まり、挑発や野次が飛び交い、厳粛なイメージの場が騒然とする様に目を丸くするばかり。300人以上が捕まったことでこの法廷は特別なものであるようだが、その後、数年かけて裁判が幾度か行われる様子も映し出され、証人と被告が“対決”する形で意見を交わすなど制度の違いを見ることができる。マフィアが暗躍する社会の構造も浮かび上がり、その中で独自の信念を持ち、命を懸けて告発した主人公も知らなかったことが明らかになるなどサスペンス感が高まる。
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(文・神野栄子)
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