学校が舞台ということで、同じ学年だけど違う性格のキャラクターたちが登場し、それぞれの距離感を含めて、面白い青春群像劇になっている。その中でもメインとなるサトミ(CV:福原遥)は、真面目で家事もこなす優等生だが学校内では孤立している。アヤ(CV:小松未可子)はサトミとは対照的にいつも友達に囲まれていて、ゴッちゃん(CV:興津和幸)という彼氏がいる気の強い性格の女の子。天真爛漫なシオン、真面目だが影のあるサトミ、社交的だが気の強いアヤ、とタイプはバラバラ。トウマ(CV:工藤阿須加)は機械マニアで優秀だが好意を持っているサトミに思いを伝えられずにいる。ゴッちゃんは勉強も運動もそつなくこなし、気さくな性格でみんなから好かれているイケメンだが、彼女のアヤと少しギクシャクしている。シオンのことが気になるサンダー(CV:日野聡)は、熱心に柔道の練習に励んでいるが、本番に弱く試合に勝ったことがない。というふうに男子も三者三様。それぞれが抱える悩みや思い違いによる微妙な距離感など、この人間ドラマの部分もハマる大きな要素だ。
そしてミュージカル要素。その時の心象風景をセリフではなく、歌で表現することでその思いをより強調して伝えることができるのがミュージカルの魅力だが、この作品が新鮮だと感じるのは、“唐突に歌い出すこと”への違和感を劇中の人物たちがちゃんと抱いているところ。
転校してきたシオンがサトミに向かって教室の中でいきなり歌い出す場面では、サトミたちも「え?」という反応をしている。しかし、「シオンはAI」という設定が、その違和感をうまく消化させてくれている。AIだから歌う時に学校の放送システムを使って音楽を流したり、別の場面ではビルなどの照明や灯りを自在に操って演出したりするなど、“人間だと違和感があるがAIだからそれもあり得るな”と思えて納得し、気にならなくなるから不思議だ。
高校生の青春群像劇にAIが入り込むという異質さ。日常生活の中で突然歌い出してミュージカルにしてしまう異質さ。でも、クラスメートとの関係性の改善や修復にAIのシオンが必要とされ、その歌声が欠かせないものになるなど、異質が異質でなくなっていくのも、この作品の大きな特徴であり、魅力ではないだろうか。そして、シオンの声を担当した土屋の表現力豊かな歌声もこの作品を形成する上で欠かせないものだと言える。
試写会満足度98%(※映画公式サイトより)という高い数値が証明しているが、この作品は“観たことで分かる”魅力が多い。公開後に口コミで評判が広がったことに加えて、公開2週間後にアップされたロングPVも作品の良さが凝縮されており、劇場に足を運ぶ人がじわじわ増え、予想を超えるロングヒットとなった。まだ見ていない人はぜひチェックしてもらいたい。
(文・田中隆信)
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