スタンド・バイ・ミー
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夏休みの冒険といって最初に思い浮かんだのは『スタンド・バイ・ミー』(1987年日本公開)。ベストセラー作家スティーヴン・キングの小説が原作、4人の少年が“死体を探す”ための冒険に繰り出す物語だ。自分たちの町の中だけが生活圏の少年にとって、そこを抜け出すのは勇気が要ること。鉄橋の上で汽車に追われて逃げるシーンが有名だが、たき火を囲んだり野宿をしたり、そんな冒険譚に世代を超えて多くの人が自分自身と少年たちを重ねて見ているはず。それぞれが家族のことで悩んだりしていて、それを打ち明けることで仲間との絆が深まり、精神的にも成長する。何度も見たくなる、“夏休み映画の金字塔”的作品と言えるだろう。
サマーウォーズ
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『スタンド・バイ・ミー』がノスタルジックな夏休み映画の代表作だとすると、現代的な夏休み映画を代表するのが2009年に公開された『サマーウォーズ』。『時をかける少女』を手掛けた細田守監督初の長編オリジナル作品となる同作は、インターネットの中で起こった世界を揺るがすサイバーテロと、それに立ち向かう田舎の大家族が描かれており、リアルさとバーチャルな要素が絶妙なバランスで構成されているところが大きな魅力だ。
あと一歩のところで数学オリンピックの日本代表になれなかった高校2年の小磯健二(CV:神木隆之介)が、先輩の篠原夏希(CV:桜庭ななみ)に「バイトしない?」と声をかけられ、長野・上田市へ。そこは武家の血筋を受け継ぐ旧家で、総勢27人の大家族だった。のどかな風景が広がる田舎町が舞台だが、インターネットを介して攻防が展開するというギャップも引き込まれる大きな要因になっている。ひょんなことから世界レベルの問題に巻き込まれていく様は、まさにスケールの大きな夏休みの冒険。ハラハラした気持ちで楽しみたい作品だ。
天気の子
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もう一つアニメーション作品から。11月に最新作『すずめの戸締まり』の公開が予定されている新海誠監督の『天気の子』(2019年公開)。高校1年の夏、離島から家出して東京にやってきた帆高(CV:醍醐虎汰朗)は、不思議な能力を持つ少女・陽菜(CV:森七菜)と出会う。その不思議な能力とは、“祈るだけで雨空を青空に変えてしまう”ことだった。
この作品も、“東京”という現実の世界とリンクする場所が舞台になっているが、天候の調和が乱れてしまっている時代という“非現実”な要素を取り入れることでファンタジー的な要素も感じられる作品となっている。“世界の不都合”と“恋人”、どちらを選択するのか? そんな難題を突きつけられるようなところもあって、考えさせられる部分も多い。“雨”がテーマなので、夏休み前の梅雨時の鑑賞に最適だ。
ニーナ ローマの夏休み
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さらに、“熱い”冒険ではないが、『ニーナ ローマの夏休み』(2013年日本公開)という作品も取り上げたい。夏休みの冒険譚というと、住んでいる町を離れて、どこか知らない場所に行くというのが定番だが、この作品はバカンスで人のいなくなったイタリア・ローマが舞台。親友から老犬・オメロの面倒を頼まれたニーナ(ディアーヌ・フレーリ)は、ローマ郊外で夏を過ごすことに。ナポリ生まれの教授、子ども管理人、チェリスト。登場人物たちはどこか風変わりで、まさにひと夏の不思議な体験といった感覚に。映像の美しさを楽しみたい人にもおすすめの作品だ。
(文・田中隆信)