日活ロマンポルノには、「10分に1回、カラミのシーンを作る」「上映時間は70分程度」といった一定のルールと制作条件があった。しかし、それさえ守れば比較的自由に映画を作ることができたということで、映画監督、および制作スタッフはそれまでになかった新しい映画を作ろうと試行錯誤し、さまざまな表現にもチャレンジした。制作が終了したのは1988年。その17年間に約1,100本の作品が公開されている。
成人映画という枠ではあるが、コメディ、サスペンス、学園もの、時代劇などジャンルの枠を越えており、そこで描かれる人間ドラマも大きな魅力となっていた。第1作に主演した白川和子をはじめ、泉じゅん、谷ナオミ、東てる美、朝比奈順子、風祭ゆき、美保純など、日活ロマンポルノをきっかけに人気となった女優も多数。さらに関根恵子(現・高橋恵子)、歌手として活躍していた畑中葉子や松本ちえこなど、すでに人気のあった出演者も参加し、それまで“ピンク映画”と呼ばれていた成人映画のイメージも変えるほどのものでもあった。
出演者だけではない。最初に触れたように、自由に作ることができるということで、若手監督の登竜門のような存在にもなっており、「日活ロマンポルノ」で作品を制作し、その後、大ヒット作を生み出した映画監督も多い。
薬師丸ひろ子主演の「セーラー服と機関銃」、中井貴一主演の「お引っ越し」、三國連太郎主演の「夏の庭」などを手がけた相米慎二。永島敏行主演の「遠雷」、松たか子と浅野忠信が共演した「ヴィヨンの妻」などを手掛ける根岸吉太郎。
仲村トオルと清水宏次朗のコンビで大ヒットとなった「ビー・バップ・ハイスクール」シリーズ、小沢真珠出演の「ろくでなしBLUES」などを手掛けた那須博之。松田優作主演の「家族ゲーム」、役所広司と黒木瞳が共演した「失楽園」、秋吉久美子主演の「の・ようなもの」などを手掛けた森田芳光。
真田広之と薬師丸ひろ子が共演した「病院へ行こう」、矢沢永吉主演の「お受験」を手掛けた滝田洋二郎。他にも周防正行、石井隆、中原俊、神代辰巳など、名前を挙げればキリがないほど多くの監督が日活ロマンポルノと関わっていた。
日活ロマンポルノから輩出された監督や出演者を見てみると、「日活ロマンポルノ」は“昭和”が誇る大きな文化だったと言える。1988年、昭和という時代が終わる直前で日活ロマンポルノの歴史も終わってしまったが、2010年には22年ぶりの復活版企画「ロマンポルノ RETURNS」として、代表作のリメイク版が制作上映された。この時は“女性も見ることができるエロス”というコンセプトで女性客を意識した内容となっていた。2016年には「日活ロマンポルノ リブートプロジェクト」が発表されて、中田秀夫、行定勲ら、日活ロマンポルノを制作したことのない5人の監督が起用され、大きな話題に。50周年を迎えた2022年にも、日活ロマンポルノ経験者の金子修介、初参加の松居大悟、白石晃士の3監督が、それぞれ「百合の雨音」「手」「愛してる!」を制作。日活ロマンポルノの影響はいまだ大きく、時代を超えて、令和にも受け継がれているようだ。
(文・田中隆信)
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