冴えないサラリーマンの安達清(赤楚)は童貞のまま30歳の誕生日を迎えることになった。“30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい”というウワサを耳にしてはいたが、もちろんそんなことは迷信みたいなもので、到底信じられる話ではなかった。誕生日当日までは…。しかし、30歳となった安達は“魔法使い”になっていた。派手な魔法や魔術を使う魔法使いではなく、人に触れるとその人の心の声が聞こえるという特殊な能力を身につけることに。信号待ちの時やオフィスのエレベーターの中など、誰かと接触すると“声”が安達だけに聞こえてくる。自身でコントロールできないのが、この魔法のツラいところ。
しかし、この魔法で安達はそれまで知らなかったことを知ることになる。それは仕事もでき、上司を含め誰からも好かれている同期・黒沢優一(町田)が自分のことを好きだということ。それまでは“同期”という接点はあるが、それ以外は自分とは全然違う世界の人間だと思っていたので、魔法使いになったことと同じぐらいの衝撃があった。
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黒沢の気持ちに気づいた瞬間が描かれているのはドラマ版の第1話。エレベーターで安達が黒沢と乗り合わせると、「また寝癖ついてる」といった黒沢の心の声が聞こえてきた。安達から見たら、モテモテな黒沢でも片思いの子をこっそり観察するんだと好奇心が芽生えるが、「すごい近い。めっちゃドキドキするんだけど」という声で、“もしかしたら、その相手は自分?”と、それまでニヤついていた安達の表情が戸惑いに変わる。
この場面をきっかけに、安達の黒沢を見る目が変わっていくが、コメディ要素をたっぷりと含みながらも、黒沢の思いや恋心を茶化したりせず描かれているのがこの作品の良さと言える。同じく第1話で、安達の残業を手伝ってあげた黒沢が、残業終わりに冷たい風吹く外でくしゃみをする安達に、自分のマフラーを巻いてあげるシーンがある。そこでも黒沢は、安達が“頑張り屋さん”だと思いながら、心を込めて巻いていることが伝わり、視聴者の黒沢に対する好感度も一気に上昇した。
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もし黒沢が、自身の思いを優先してグイグイと接近するタイプだったら話が違ってきただろう。黒沢は、“もし安達が自分の家に泊まりにきたら”ということを考え、ジャストサイズのパジャマを用意していたりするが、「これ以上は安達も望んでいない。そばにいられるなら同期でいい」と、安達の気持ちを最優先にする気遣いと健気さがあって、そこがいいバランスと良い距離感を生み出している。
人が人を好きになる。そして好意を持たれた側も、その人の本心、人柄に触れ、惹かれていく。その“純粋な恋心”と“誠実さ”が多くの人から支持される理由となっている。
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劇場版『チェリまほ THE MOVIE〜30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい~』も配信がスタート。ドラマ版の“その後”が描かれ、“遠距離恋愛”という要素が加わり、その“魔法”が必要かどうかなど、より深く描かれた作品となっているので、合わせてチェックしてもらいたい。
(文・田中隆信)
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