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本国アメリカでは、『マイ・エレメント』が劇場公開された週末までの3日間の興行収入が3000万ドルに満たなかった。ピクサー史上において歴代ワースト2位の記録だったという。ところが、そこからグンと成績を伸ばし、勢いは日本公開時にも波及しながら、2023年10月13日現在で、2023年の世界興行収入ランキング第9位と大ヒットしている(※Box Office Mojo調べ)。
そのヒットの要因となったのが、世界各国のレビューサイトでの高評価やSNSでの“口コミ”だといわれている。そんな口コミとして、リピーターも続出した日本でも「泣ける」「ボロ泣きした」「感涙」といった言葉が並んだ。
泣けるポイントとしては、ピクサーのこれまでの作品では見られなかった真っすぐなラブストーリーを軸に、愛が詰まっていることだ。
ピクサーは『トイ・ストーリー』でおもちゃの世界、『バグズ・ライフ』で昆虫の世界など、“もしも”の世界を擬人化して描いてきたが、今回は火、水、土、風というエレメント(元素)の世界をピックアップ。主人公は火の女の子エンバーと、水の男の子ウェイドだ。
物語の始まりは、さまざまなエレメントたちが暮らすエレメント・シティに、ある理由で故郷を離れ、移り住むためにエンバーの両親が上陸するところから。そこで第1波として水のエレメントたち、第2波で木のエレメントたち、第3波で風のエレメントたちが順にやって来て出来上がった街だということが、さらりと描かれる。その順番で優位性が生まれているのだ。もっとも新しくやってきた火のエレメントは当初あまり歓迎されず、郊外に集まって、そのエリア一帯は“ファイアタウン”と呼ばれるように。そんなこともあって、エンバーの父・バーニーは、他の元素たち、特に水のエレメントを快く思っていない。
そんななかで出会ったエンバーとウェイド。感情をコントロールできなくて時に爆発させてしまうエンバーは、涙もろくて優しく、自由な心を持つという自分とは正反対なウェイドと過ごすうちに、考えてもいなかった自分の可能性について考えていく。
2人が惹かれ合っていくドキドキ感が高まっていくも、思いを寄せ合っても火と水ということで触れ合うことを躊躇してしまう切なさや、親に認めてもらえない悲しみが胸に迫る。
エレメントという、より抽象的なものをキャラクターにしているのだが、爆発してしまったり、涙に濡れたりといった“感情”を、それぞれの特性につなげて表現し、観る者にしっかり伝えているのが見事。それがエンバーやウェイドたちの気持ちに一喜一憂する共感を生み、現実社会でのことを考えさせられることに。
そして、恋における愛しい人を思う気持ちだけでなく、親を思う気持ち、子を思う気持ち、自分を信じる気持ちと、2人はさまざまな愛に包まれていることに気付く。エレメントを活かしたユーモアにクスっと笑いながら、喜びや悲しみに刺激されて、泣かせられるというよりも、いつしかホロリと温かなものが頬を伝う感じだ。
日本語吹き替え版では、エンバーを川口春奈、ウェイドを玉森裕太が担当。声にキャラクターの感情をうまくのせて好演している。字幕版とどちらもぜひ楽しんでほしい。
(文・神野栄子)
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