アクション・ロマンス時代劇『長歌行』は、史実にもあるクーデター「玄武門の変」から幕を開ける。当時の中国は隋を滅ぼした李淵(り・えん)率いる唐が栄華を誇り、長男の李建成、次男の李世民らによる次期皇帝争いが起こっていた。そして「玄武門の変」で、李世民が李建成を殺害し、李世民が第二代皇帝の座に就くこととなったのだ。この殺害された李建成の娘が、今作の主人公・李長歌(り・ちょうか)だ。長歌は姫というより皇子のような気質で、幼い頃より叔父である李世民に武術を教わり、その娘の楽嫣(らくえい)とは親友のように過ごしてきた。そのため、長歌は実の父親よりも叔父の李世民に懐いていたが、ある日、突然、その叔父に両親を殺されるという信じ難い現実に打ちのめされることになる。
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このクーデターにより両親だけでなく、最愛の叔父と親友、そして居場所を失った長歌は、皇帝に反旗を翻した李建成一族の生き残りとして追われる身になる。しかし、当時の街は高い壁に囲われており、出口が限られているため、逃げようがなかった。その際に手を貸してくれたのが、蹴鞠の試合で対決した遊牧民族・阿詩勒部の将軍・隼(しゅん)だった。長歌の賢さに魅了されたらしい隼はことあるごとに長歌を助け、互いに身分を隠したまま、絆を深めていく。そうして、唐の都・長安から遠く離れた土地にたどり着いた長歌は、いつの日か両親の復讐(ふくしゅう)を遂げることを堅く心に誓い、隼の手助けを得ながらも頭脳と度胸、武術を駆使して生きながら得ていく。
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一方、第二代皇帝の娘となった楽嫣は、刺繍が趣味のか弱きお姫様。彼女は実際の李世民の公主(皇女)をモデルにしたドラマオリジナルのキャラクターだ。お淑やかだが大好きな長歌のためなら、なりふり構わずに行動する楽嫣は、公主になったことで政略結婚を迫られていた。しかし、これを避けたい李世民は、公主は病と偽り、療養地に隠れるように命ずる。こうして、朝廷の武官である皓都(こう・と)、李世民の臣下となった魏徴(ぎ・ちょう)の息子・魏淑玉(ぎ・しゅくぎょく)と共に都の長安を離れるが、その出先で人買いにさらわれたことをきっかけに、辺境の地をさまよい歩くことになる。こうして、何の後ろ盾もない状態で生きていくことになった楽嫣は、宮中では知る由もなかった現実の厳しさを、身をもって知っていく。
そして、それぞれに厳しい道のりを歩む姫たちを追う男たちが現れる。先ほどの皓都と魏淑玉だ。特に2人と幼なじみの魏淑玉の心情は複雑だった。彼は幼き頃から長歌のことが好きだったため、楽嫣の捜索をしながらも長歌の目撃情報を聞くと心がざわついてしまう。そして、魏徴と同位の臣下である杜如晦(と・じょかい)の養子である皓都は、義父から1日も早く認められるために長歌を抹殺したいと思っているが、護衛をしていた楽嫣に惹かれつつあり、彼女の行方も気になるところ。姫たちが必死に生き抜いている裏で、男たちはそれぞれの思いを抱えながら彼女たちを追い続けるのだった。その一方、実は長歌の敵方であった隼は、長歌の正体を知りながらも彼女を見守り続けていた。
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全49話かけて、次世代の指導者たちの生きざまを壮大に描く『長歌行』。どんな苦境に立たされようとも常に民の安全を一番に考える長歌と楽嫣、そして隼らの姿勢に心を打たれると同時に、結ばれそうで結ばれない恋愛模様にヤキモキさせられる物語だ。ディリラバ(長歌)、ウー・レイ(隼)、チャオ・ルースー(楽嫣)、リウ・ユーニン(皓都)、ファン・イールン(魏淑玉)ら美男美女による恋愛模様は大変美しいが、長歌や隼らによる知略での政権争いも見応え十分。また、戦闘シーンの描かれ方は漫画原作ゆえでとてもユニークなので、そこも注目してほしい。人気の恋愛ファンタジー中国史劇とは一線を画する骨太の作品なので、歴史好きの方にもぜひ見ていただきたい一作だ。
(文・及川静)
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