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名匠マーティン・スコセッシ監督が切り込むアメリカの黒歴史『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』

名匠マーティン・スコセッシ監督が切り込むアメリカの黒歴史『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
(C)2023 Paramount Pictures.
第81回ゴールデングローブ賞で7部門にノミネートされ、ドラマ部門最優秀主演女優賞を受賞。アカデミー賞最有力候補ともいわれている映画『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』。80歳を越え、なお第一線を走り続ける名匠マーティン・スコセッシ監督による実際の事件を基にしたサスペンス大作を紹介する。

1942年生まれのマーティン・スコセッシ監督が初の長編映画を撮ったのは1967年のこと。それから数々の傑作を生みだし、今日に至るまで“レジェンド”と称されるにふさわしい活躍を続けている。そんななか、今回の『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』は、レオナルド・ディカプリオを主演に迎え、名優ロバート・デ・ニーロもキャスティング。スコセッシ監督は、ディカプリオとは『ウルフ・オブ・ウォールストリート』などでタッグを組み、これで6度目、デ・ニーロとは2人の代表作ともなっている『タクシードライバー』などから10度目のタッグとなる。それぞれが組んだことがあっても、この豪華な3人が顔をそろえたのは長編作品ではこれが初めてだ。

本作は、デイヴィッド・グランによるノンフィクション小説が原作。禁酒法時代である1920年代のオクラホマ州オセージ郡で起きた、先住民であるオセージ族の連続殺人を取り上げた作品だ。

実はこの事件をきっかけに、アメリカの警察機関の一つであるFBIの誕生につながったといわれている。原作では、のちのFBI初代長官となるエドガー・フーヴァーに命じられた特別捜査官トム・ホワイトが事件に迫っていく。

映画化に際して、スコセッシ監督は『フォレスト・ガンプ 一期一会』などの脚本家エリック・ロスとともに脚本も担当。準備段階の初めは、原作通りにトム・ホワイトを主人公に据えていたが、製作総指揮にも名を連ねるディカプリオが別の人物を演じたいと希望したという。それで大きく視点が変わった。

事件の背景にあるのは、部族の土地から湧き出た石油の受益権のおかげでオセージ族の人々が巨額の富を得たこと。そして、政府の誤った政策も引き金となった、白人による搾取だ。アメリカ国史の闇の一つである。

ディカプリオが演じるのは、第一次大戦から帰還したアーネスト・バークハート。地元の有力者である叔父のウィリアム・ヘイル(デ・ニーロ)を頼ってオクラホマに移り住む。やがてアーネストは、オセージ族の女性で家族から受益権を受け継ぐ予定のモリー(リリー・グラッドストーン)と結婚することに。

アーネストは裏の顔を持つ冷酷なヘイルに操られる男である一方で、モリーへの愛は確かなもの。そんな矛盾を抱え、思わず愚か過ぎないか…とつぶやいてしまいそうになる男が軸となり、ヘイル、モリーが加わって、事件を内側から見せる。人の過ち、オセージ族に起きた悲劇を、時に淡々と、誠実に描き出していくのだ。当初予定されていた謎解きのようなスタイルで外側から見るよりも、歴史を真っすぐ見つめ、人間の弱さやエゴ、葛藤、そして愛をじっくりとつづる。

実際、3時間26分という上映時間で、捜査官が本格的に登場するのは2時間を過ぎたあたり。初めから悪い側をあっさりと見せるのだが、モリーの視点があることで、どうなっていくのだろうというドキドキハラハラ感も生まれる。重厚な広がりはさすがだ。愚かゆえの行動をしているアーネストとモリーの愛が浮かび上がり、考えさせられる。

アメリカ国内でも、時間の経過とともに、不都合さ漂う汚点ともいうべきことから片隅に追いやられていた史実を、映像にして切り込んだスコセッシ監督。アカデミー賞の前哨戦といわれるゴールデングローブ賞では、惜しくも作品賞、監督賞、主演男優賞などノミネートされた全部門受賞には至らなかったが、リリーが主演女優賞を獲得した。その演出術と、人間心理を描くことに長けたスコセッシ流の語り口で闇に迫っていく展開を堪能してほしい。オセージ族の文化をとらえた描写や、エピローグの演出も興味深く、長尺だが実に見応えのある作品となっている。

(文・神野栄子)

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