「第96回アカデミー賞授賞式」直前！2020年代の受賞作・名作をチェック！近年の傾向は？

エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス

ここ数年、“多様性”が尊重されるようになったがそれは映画界も同じ。そういった傾向、時代の潮流も2022年度(第95回)で「作品賞」を受賞した『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』を後押ししていたかもしれない。主人公はコインランドリーを経営する中国系移民の女性・エヴリン(ミシェル・ヨー)で、夫のウェイモンド(キー・ホイ・クァン)は優しいけれど頼りなく、娘のジョイ(ステファニー・スー)はちょっと反抗的。ある時、税金問題で監査官に絞られていると、夫に乗り移った“別の宇宙の夫”から「全宇宙にカオスをもたらす強大な悪を倒せるのは君だけだ」と宣告され、エヴリンは世界の命運を託されてしまう。“マルチバース(多元宇宙)”というものをわかりやすく見せつつ、カンフーアクションも取り入れ、「作品賞」を含む最多7部門を受賞。エヴリン役のミシェル・ヨーは、アジア人初の「主演女優賞」に輝いている。夫役のキー・ホイ・クァンも「助演男優賞」、エヴリンに立ちはだかる“ヴィラン”の一人・ディアドラ役のジェイミー・リー・カーティスも「助演女優賞」と、まさに“エブエブ”の年となった。
2019年度(第92回)にポン・ジュノ監督の『パラサイト 半地下の家族』が外国語映画で初の「作品賞」を受賞しているが、それも“多様性”の時代における大きな風穴を開けた作品だったと言える。

『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』を観る

コーダ あいのうた

2021年度(第94回)の「作品賞」は『コーダ あいのうた』。主人公の少女・ルビー(エミリア・ジョーンズ)は、両親と兄との4人家族。しかし、耳が聞こえるのはルビーだけ。憧れているクラスメートのマイルズ(フェルディア・ウォルシュ＝ピーロ)が合唱部に入ったことで、ルビーも合唱部へ。顧問の教師が彼女の才能に気づき、音楽大学への進学を薦めるが、ルビーの歌声が聴けない両親はその才能を信じられず大反対。悩んだ末に家業の方が大事だと思い、夢を諦めようとするが、思いがけない方法で父親が娘の才能に気がついた…。
この作品では、家族役は実際に耳の聞こえない俳優が演じている。この作品も“多様性”を尊重しつつも、聴覚障害だけを焦点に当てているわけではなく、“家族”の絆が軸に描かれている。

『コーダ あいのうた』を観る

ノマドランド

そして2020年度(第93回)の「作品賞」受賞作品は『ノマドランド』。企業の倒産とともに、長年住み慣れた企業城下町のすみかを失った女性・ファーン(フランシス・マクドーマンド)は、一台の車に亡き夫の思い出を詰め込んで、車上生活者、現代のノマド(遊牧民)として過酷な季節労働現場を渡り歩くことにした。「作品賞」の他に「監督賞」「主演女優賞」「撮影賞」の4部門での受賞となったが、クロエ・ジャオ監督は中国出身。アジア系女性として初の監督賞を獲得している。

『ノマドランド』を観る

“多様性”だけが基準ではないが、偏りのないテーマやキャスト、スタッフ陣による作品というのが一つの新たなスタンダードになってきているのは間違いないようだ。授賞式を前に、直近3年の「作品賞」３作品をぜひおさらいしてもらいたい。

（文・田中隆信）