明の都、順天府(今の北京)の推官、唐泛(演:官鴻)は六品の官吏で、都で起こる事件の推理を担当。頭脳明晰だけどお調子者で食いしん坊。ペアを組むのは寡黙な武官の隋州(演:傅孟柏)。それぞれが追っていた事件に接点があることに気づくと、まるで正反対の二人が力を合わせてさまざまな事件を解決していく。原作小説はBLで、そこかしこに何となくそんな雰囲気の漂う本作。なんたってね、あんまり女の子出てこないよね。もちろん出てきたっていいんだけど、そこには何か漂うわよ、やっぱり。
『成化十四年~都に咲く秘密~』× 時代劇の用語
前回の紹介でも書いたんだけど、本作の舞台は明朝の成化年間。タイトルの成化十四年は西暦1478年だから、日本だと室町時代。はい、大学受験を控えた皆さん、古文を思い出してほしい。室町時代の作品だって(まあ平安時代とくらべりゃ楽だけど)今の感覚で読むと読めないわよね。当然使われる言葉も違うしさ。中国語でもそれは同じ。今の標準的な中国語は清朝末期の北京官話を参考に作られたものなの。でもドラマのなかでは「それっぽい」用語がたくさん使われているだけで、完全に当時の話し方が再現されているわけじゃない。これは日本の時代劇見てても同じよね。
作品紹介
成化十四年~都に咲く秘密~
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明王朝時代のシャーロック・ホームズとワトソンが平和と秩序のために活躍する推理物語ー“武術”と“知恵”を駆使し幾多の試練を乗り越えた2人はその友情を深めていく!
時は成化帝が世を治める明朝時代・成化十四年。都の行政機関である順天府で法を司る推官として抜群の推理力を誇る唐泛(とうはん/グアンホン)は、妓楼で起きた死亡事件を調べていた。事故死に見えたこの事件だったが、唐泛は被害者が何者かによって殺害されたと推察し、捜査を進めていく。その頃、秘密警察・錦衣衛の隋州(ずいしゅう/フー・モンボー)も、皇太子の学友が失踪した事件を調べていたが、偶然にもこの事件が妓楼の一件と深く交錯していることが判明する。図らずも共に謎を解明していくことになった二人は、この事件をきっかけに、時にぶつかりあいながらも絆を深め、最強の相棒へと成長していくのだった。やがて調べが進み、宮廷内の覇権争いが明らかになる中、宮中の人間の関与を疑い始めた唐泛と隋州の前に、万貴妃(ばんきひ/アリッサ・チア)派宦官の汪植(おうしょく/リウ・ヤオユェン)が現れ、二人を翻弄していく。
出演:グアンホン、フー・モンボー、リウ・ヤオユエン、アリッサ・チア、ワン・マオレイ、マオ・イー
監督:グォ・シュアン、ヤン・ホアン
『成化十四年~都に咲く秘密~』第一話は無料で視聴が可能。視聴はこちら
第一話に出てくる「時代劇」用語
イケメン皇帝陛下を何と呼ぶ?
本作の舞台は都の順天府、宮廷ドラマじゃないんだけど唐泛は官吏だし、主要人物といっていい汪植は宦官だから宮中の人。そんなわけで時々皇帝陛下もお出ましになるのね。第一話から出てくる皇帝陛下、ドラマの中ではいろいろな呼ばれ方をしてるの、気づいたかしら?
“皇(ㄏㄨㄤˊ|huáng)帝(ㄉㄧˋ|dì)”というのは中国から入った用語であたしらも使うけど、皇帝を「皇帝」って呼ぶ人なんていない……わけじゃないのよね。
例えば先帝のお妃である皇太后なんかは「皇帝」と呼んでいたそう。臣下は
“皇上(ㄕㄤˋ|shàng)”とか“陛(ㄅㄧˋ|bì)下(ㄒㄧㄚˋ|xià)”、“聖(ㄕㄥˋ|shèng)上”なんかが多かったようだけど、清朝最後の皇帝の溥儀は『わが半生』の中で「太后や太妃(先代の側室)は私を皇帝と呼んだ。実の父母、祖母もそうであった。その他の者は皆「皇上」と呼んだ。私にも名、幼名はあったが、どの母であっても呼んだりしたことはなかった」と言っている。「溥儀」って世界史じゃ出てくるしテストで名前書いたこともあるけど、当時は呼ぶこともはばかられる対象だったのね。
“怎麼說”が“此話何說”? 訳:「どうして」が「如何に申すか」?
次は時代劇特有の言い回しを見てみましょ。中国語のリスニング力がある人は気づいてるかもしれないんだけどね、例えば日本の時代劇だって武士だったら「〇〇でござる」とか「〇〇で候」とか言ったりするじゃない(なんかそういうのも最近減ってきたような…)?そんな感覚で中国語時代劇も特有の言い回しがあるわけ。現代中国語でいう
“怎(ㄗㄣˇ|zěn)麼(˙ㄇㄜ|me)說(ㄕㄨㄛ|shuō)”(それってどういうわけ?)が“此(ㄘˇ|cǐ)話(ㄏㄨㄚˋ|huà)何(ㄏㄜˊ|hé)說”に変わるし、
“為(ㄨㄟˋ|wèi)什(ㄕㄜˊ|shén)”(なんで? どうして?)は“為何?”になったり、“哪(ㄋㄚˇ|nǎ)裡(ㄌㄧˇ|lǐ)”は“何方(ㄈㄤ|fāng)”、“不(ㄅㄨˋ|bù)需(ㄒㄩ|xū)要(ㄧㄠˋ|yào)”は“不必(ㄅㄧˋ|bì)”に変わったりする。
それから一人称が“我(ㄨㄛˇ|wǒ)”から“在(ㄗㄞˋ|zài)下”になったり皇帝に仕える人だと“奴(ㄋㄨˊ|nú)才(ㄘㄞˊ|cái)”と言ったりね。中でも“為何”とか“不必”は今でも普通に使うけど、他のは聞いたことないわ。あえて言ったりしてるとすればもうほとんど冗談よね。それに宮廷での用語と一般庶民の用語も当然違うから、そういうのも注意して聞いてみ
ると面白さが倍増するわよ。
唐泛の中国語は官鴻の声じゃない?
改めて見返しましたところ、主演二人の台湾人のうち傅孟柏は台湾人らしい発音だから自分の声だけど、どうしたって官鴻は大陸の発音が自然すぎる。そこで調べたらば、なんとびっくりアテレコでした。なんだあ、どうりでㄦ音とか漢字が大陸の読み方だと思った。あたし、時代劇は雰囲気に合うのってとっても大事な要素だと思うんだよね。だってさ、西郷さんが思いっきり東北訛りだったら「んんん??」ってなるじゃないよ。だけど傅孟柏の隋州はあれでいい。だってイケメンだから!
執筆者情報
歐陽ママ
早稲田大学大学院修了。論文のテーマは台湾の文化。
2012年から2013年にかけて台湾で生活、日本語の先生などしてふらふらする。
新宿二丁目では2021年10月15日に新しいお店「美麗島」をオープン!