その台湾では古くより大小問わず、秀逸なLGBTQ作品が多く作られてきた。そこで台湾を代表するLGBTQ映画と、BLドラマの歴史を辿ってみようと思う。
台湾でのLGBTQ作品を語る上で外せないのが、1993年のベルリン国際映画祭で金熊賞を受賞、そしてアカデミー賞外国語映画賞にノミネートされたアン・リー監督の映画『ウエディング・バンケット』だろう。文学の世界では“台湾LGBTQ文学のバイブル”とも言われる白先勇の長編小説「孽子(げっし)」が1983年に刊行されているが、映像世界で高く評価されたのはこれが初となる。ニューヨークで同性の彼と暮らす台湾人の青年が両親からの結婚のプレッシャーに耐えかね、偽装結婚を企てるが、うその報告を聞いた両親が大喜びでニューヨークまでやってくる。そうして、青年と両親、青年の恋人と偽の婚約者という奇妙な5人での生活が始まり、物語は意外な方向へ進んでいくわけだが、同性愛を描いた作品として金字塔を立てた。
実は台湾では映画公開以前からある男性がたった1人で同性婚を訴えていたが、大きく取り上げられることはなかった。しかし、2020年の映画『君の心に刻んだ名前(原題:刻在你心底的名字)』でも描かれている通り、1987年に戒厳令が解除されると女性運動や同性婚運動が活発になる。特に『ウエディング・バンケット』の世界的ヒットは追い風となり、著名人が大々的に同性婚を祝うパーティーを行うなど、社会全体に対して同性婚を訴える動きが高まっていった。
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そうして、2000年代には、女子高生が自分のセクシャルに気付いていく『藍色夏恋(原題:藍色大門)』(2002年)や、男女3人の友情と恋を描く『花蓮の夏(原題:盛夏光年)』(2006年)、2010年代には性別適合手術を望むパイワン族出身のトランスセクシャルの青年を描く『阿莉芙』(2017年)など、芸術性と社会性いずれにも秀でたLGBTQ映画が発表されていく。
その『阿莉芙』と同時期に登場したのが、台湾BLドラマの先駆『HIStory』シリーズだ。2016年に就任以前から同性婚の法制化を支持するメッセージを送ってきた蔡英文が総統に選ばれてからは、LGBTQ作品の制作が活発化。女性プロデューサーのジャン・ティンフェイ(張庭翡)が手がける『HIStory』シリーズは、2017年に全4話×3シリーズのオムニバスドラマとして誕生し、翌年にも同形式で第2弾を配信。ライトでピュアなラブストーリーが好評を博し、2019年の『HIStory3 那一天〜あの日』、2021年の『HIStory4 隣のきみに恋して〜Close to you』は全10話の長編へと発展を遂げている。
同性婚が法認されてからは、『2020 Because Of You〜君を愛してるから』や、2021年誕生の『We Best Love』シリーズ、そして話題を呼んだ『Be Loved in House 約・定〜I Do』へとBLドラマは広がりを見せた。一方、映画界でも2020年にモー・ズーイー主演の社会派『親愛なる君へ(原題:親愛的房客)』や、主題歌もヒットした青春映画『君の心に刻んだ名前』など、世界的にも高く評価されるLGBTQ作品が作り続けられている。
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少し大胆に分別すると、映画は社会派のLGBTQ作品として、そしてドラマは日本のやおいブームの影響も受けつつ、ファンタジックなBL作品として確立。BLドラマが一つのジャンルとして定着した現在も、台湾らしい淡く美しい映像美と心を潤す音楽、そしてピュアさを失うことなく、良作が生み出し続けられている。2022年には『HIStory』シリーズのクリエイターらが手がける『About Youth』と、『We Best Love』シリーズの監督が放つ『My Tooth Your Love ラブリー・クリニック』が登場。いずれもラブシーンはライトなので、特にBL初心者にオススメだ。台湾BLは本当に構図や色使いが美しいので、そこも注目してほしい。
https://news.tv.rakuten.co.jp/2022/09/220911mama-aboutyouth.html 『About Youth』歐陽(オウヤン)ママの注目作品紹介
(文・及川静)
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