●『哭声 コクソン』のナ・ホンジン監督が、タイホラーをプロデュースした『女神の継承』
228931 『哭声/コクソン』(C)2016 TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPORATION https://tv.rakuten.co.jp/content/228931/
ナ・ホンジン監督の『哭声/コクソン』(2016年)といえば、國村隼が得体のしれない男を演じて、外国人として初めて韓国・青龍映画賞を受賞し、日本でもヒットしたことが印象に残っているが、その『哭声/コクソン』の舞台をタイに置き換えたかのような作品『女神の継承』をナ・ホンジン監督がタイでプロデュースした。
ナ・ホンジン監督といえば、レオナルド・ディカプリオがリメイク権を獲得した『チェイサー』(2008年)や、『哀しき獣』(2010年)の暴力的なサスペンスで一躍時代の寵児に。そして『哭声/コクソン』では、韓国の片田舎の村のシャーマニズムをモチーフにオカルト的な恐怖を描き、韓国内で687万人超を動員する大ヒットを記録している。
『女神の継承』は、ナ・ホンジンの原案・プロデュースだが、タイのバンジョン・ピサンタナクーンが監督を手掛け、タイ映画として制作された。タイのドキュメンタリーチームが、住人たちが崇拝するバ・ヤン神の霊媒二ムの日常生活を記録するためにタイの山深い村へやってきた。代々女性が霊媒を継承してきた二ムの家系だが、次期継承候補の二ムの姪ミンが、悪い精霊に取り憑かれてしまう。二ムを筆頭に霊媒たちが命がけで悪霊に挑むが――。
悪霊、祈祷、地元信仰は国が変われど、その根底は変わらない。『哭声/コクソン』を見た方は、あの、次から次へと訳の分からないものに襲われるドキドキを思い出すはず。ミンを演じたナリルヤ・グルモンコルペチの、可憐な少女から悪霊に憑かれて豹変していく演技は圧巻。國村隼とは異なる、直接的な恐怖を植えつけられる。アジア人が共感する恐怖を味わうことができる作品だ。ナ・ホンジンには、ぜひ日本でも同様の作品を制作してほしい。
●Jホラーの父・鶴田法男監督が、貞子を彷彿させる中国ホラー『戦慄のリンク』に挑戦
444576 『戦慄のリンク』(C) 2020伊梨大盛伝奇影業有限公司 https://tv.rakuten.co.jp/content/444576/
近年、上記の『哭声/コクソン』や、ゾンビホラー『新感染 ファイナル・エクスプレス』など韓国ホラーのヒットが目立つが、アジアのホラー作品をリードしてきたのは、日本だ。その代表格といえばやはり、ハリウッドでもリメイクされた貞子の呪いのビデオをモチーフにした「リング」シリーズだろう。鈴木光司の小説「リング」を原作にした中田秀夫監督の『リング』(1998年)と同時上演された続編の『らせん』(飯田譲治監督)の怖さは海外でも評価され、1999年には日韓合作による韓国映画『リング・ウィルス』が、2002年にはドリームワークスによるアメリカ映画『ザ・リング』がリメイクされた。特に米映画『ザ・リング』は、主演のナオミ・ワッツの好演も相まって2億4,900万ドル以上の興行収入を記録し、『ザ・リング2』(2005年)、『ザ・リング/リバース』(2017年)と続編も制作された。もちろん日本でも『リング』は配給収入10億円を突破し、『リング2』(1999年)、『リング0 バースデイ』(2000年)、『貞子3D』(2012年)、『貞子3D2』(2013年)、『貞子vs伽椰子』(2016年)、『貞子』(2019年)、『貞子DX』(2022年)と24年経った近年でもシリーズ新作が制作されているほどの根強い人気を得ている。
映画「リング」シリーズの完結編となったのが、『リング0 バースデイ』。この作品で監督を手掛けたのが、テレビドラマ『学校の怪談』、『ほんとにあった怖い話』などの演出で、『CURE』の黒沢清監督、『呪怨』の清水崇監督ら多くの後進に影響を与えた「Jホラーの父」と呼ばれる鶴田法男だ。その鶴田監督が『戦慄のリンク』(2020年)で中国映画に挑んだ。
ネット小説を読んだ人たちが呪いによって無残な死を遂げる事件を解明する若者たちを描いた本作に、恐怖の象徴として長髪で白いワンピースを着た女が登場するシーンは、まさに「リング」の貞子を彷彿させる。日本の制作スタッフも多く携わっており、中国語というところを除けば、日本のホラー作品のような恐怖感がかなり味わえる。
アジア各地で国を超えた才能が開花しているホラー作品で、しばし恐怖に浸ってみては?
(文・坂本ゆかり)