日本発で世界を魅了したBLドラマが映画化『劇場版 美しい彼～eternal～』

近年、アジアを中心にしたエンターテインメント業界で盛り上がり続けるBL作品。タイや台湾などのドラマや映画が日本のファンの心をつかんでいるなか、日本の作品も世界へと広がっている。『美しい彼』もその一つだ。

最初のドラマは2021年11月に放送スタートし、関西地区のテレビ局が制作。深夜枠での放送だったのにも関わらず大きな反響を呼んだ。あまりの沸騰ぶりから、2023年にドラマシーズン2放送、劇場版公開と続き、再びファンを沸かせたのだが、そのファンは日本だけでなく世界の人々も含まれていた。ドラマが世界でも配信されていたからだ。主演2人のSNSには各国ファンからもコメントが寄せられ、さらに八木勇征は韓国の「ソウルドラマアワード」で2022年、2023年と史上初の2年連続でアジアスター賞を受賞している。

物語は、萩原利久演じる思うように言葉を発せない吃音症を持ち、幼いころから周囲になじめずに“ぼっち”を極める平良一成と、八木演じる圧倒的なカリスマ性のある清居奏の純愛を描く。ドラマは高校3年生での出会いから、大学生となった平良と俳優の道に進んだ清居が思いを通じ合わせていく様子が丁寧につづられる。ファンの間で“ひらきよ”と呼ばれる2人は、まるで“陰と陽”のように対極だ。一瞬で平良を引き付けたタイトルロールそのものの孤高の美しさが備わった清居は、平良のことを「キモ」と言う。清居のことを「キング」また「神様」のように崇める平良のあまりにも真っすぐな気持ちは、そのひと言で表現されるのかもしれないが、清居のその言葉に宿した思いが伝わってくると、たまらなく尊いものとなる。そんな2人の関係性が第一の本作の魅力だ。2人の感情への共感、あるいは尊さが広く世界のファンを魅了した。

ドラマは映像の美しさも評判だったが、劇場版はさらに磨きがかかり、耽美ともいえる。始まりからオーガンジーに包まれた2人の姿に息を飲む。ストーリーは、ドラマシーズン2の続きとなるのだが、過去の回想シーンが差し込まれるので、劇場版から見ても追いつける。とはいえ、丁寧に関係性がつむがれたドラマを見ておくと、感動と余韻がさらに深くなることは間違いない。

紆余曲折の末に恋人同士になり、幸せな同棲生活を送る2人。だが、大学卒業が近づき、人気カメラマン・野口(和田聰宏)のアシスタントとして働き始めた平良は、プロの仕事を目の当たりにし、俳優として活躍の場を広げる清居の邪魔になりたくないと、距離を少しずつ置くようになる。「清居は神様」である平良と、対等な“普通”の恋人になりたい清居。すれ違う思いは、ある出来事をきっかけに揺さぶられる。

“萌え”を呼び起こす愛しい描写の数々と、観る者の琴線に触れるやり取り。そのなかに、平良の怖いほどの内にひそめた清居への思い、清居の純粋な恋への思いがあふれ出てくる。平良の葛藤も、清居の葛藤も分かるゆえのもどかしさが胸に迫る。

先に主人公2人の関係性が魅力と紹介したが、「キモイ」と言われてしまう愛の深さを絶妙な加減で愛しく見せる萩原と、ダンス＆ボーカルグループ・FANTASTICS from EXILE TRIBEのボーカルで、本シリーズのドラマが初めて個人で出演した作品だったにも関わらず、持ち前の美しさと存在感、演技への真摯さで清居を体現した八木の力も大きい。

萩原と八木が築き上げた平良と清居は、ドラマから劇場版でさらなる深みを醸し出している。世界のBLファンもとりこにした物語にぜひ浸ってみてほしい。

（文・神野栄子）