人気ウェブトゥーンが原作の映画『コンクリート・ユートピア』は、原作の第2部にあたるアパート内外の生存者同士の混乱をベースに、崩壊せずに残ったファングンアパートを巡ることで露わになる人間の恐ろしさを描いている。ヨンタクをはじめ、ソジュン演じるミンソン、ボヨン演じるミョンファらが住むアパートには、荒れ果てた極寒の町から逃れる居住者以外の生存者が押し寄せ、不法侵入や殺傷といった犯罪が多発していた。そんな危機的状況に立ち上がろうとした住人たちは、アパート内の火災事故の際に危険を顧みずに消火にあたった902号室の住人、ヨンタクを臨時代表に選出したことから物語の歯車が狂い始める。
アパート内で指揮を取ることを命じられ、権力を手にしたヨンタクは、物資確保のために出掛けた町で暴力を振るう姿を見せたり、不法滞在者を処罰したりとアパートを守るために手段を選ばない傲慢さを見せ始める。
そんなヨンタクを「代表!代表!」と従う住民たちとは、封鎖された世界で主従関係が築かれていくなか、アパート内でのルールを背く者には容赦なく権力を振りかざし、犯罪行為にも手を染め、どんどん豹変していくヨンタクの狂気っぷりを、ビョンホンは見事に演じている。人はもしも命の保証がない緊急事態に陥った場合、ヨンタクのように変化していってしまうのだろうか、そんな恐怖すら感じさせる彼の説得力のある演技力が本作では見どころの一つだろう。
ヨンタクのように、アパート本体の保守に執着してしまうのは、韓国社会における住居に対する価値観も表現されているという。韓国ではアパートはある種の「富の象徴」で、ブランドアパートメントやラグジュアリーアパートメントといったものに住むのがステータス。それゆえに格差と分断を生む原因にもなる。例えば、住民同士の会合でミンソンが防犯隊長に任命される際、住民の一人から「彼ら夫婦は持ち家と言えるのか?」と問われるシーンや、体の不調で兵役入隊を免除された住人に対する態度などアパートへの特別な感情だけに留まらず、韓国社会においての人間関係の格差なども描いていることも印象的だろう。
また本作には、夫婦役で出演する『梨泰院クラス』のソジュンや『力の強い女 ト・ボンスン』のボヨンのほか、映画『はちどり』で圧倒的な存在感を放った若手注目俳優のパク・ジフ、劇中ではヨンタクと同様にリーダーシップを発揮する婦人会会長のグメ役のキム・ソニョンなど、豪華キャストがこぞってこのアパートに入居しているのも驚きだ。
特に看護師のミョンファとヨンタクの隣の部屋の住人ヘウォン(ジフ)は、ヨンタクやアパート住人の楽観的な姿に不信感を覚えていた矢先に彼の衝撃的な秘密を知ってしまう重要人物。このアパート内唯一の“常識人”として、住民を守ろうとする姿も必見だ。
人間が持つ様々な醜さが災害を機に露わになる中で、彼らが最後にたどり着くのは、ユートピアかそれともディストピアか?
(文・suzuki)
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