一筋縄ではいかない時空を超えるラブストーリー『古相思曲～君想う、千年の調べ～』、もどかしい恋路に夢中になる（※ネタバレあり）

ストーリーは、現代と架空の設定となる晟（せい）国が舞台になる。晟国を題材にした歴史小説の著者・沈不言（しんふげん）は、ドラマ化の話が舞い込み、3部作にしてほしいと続編執筆を頼まれる。しかし、晟国についての史料は少なく、史実を基に創作するという信念を持つ不言は、編集者と言い争いに。電話を切っても興奮冷めやらぬ不言は鼻血が出てしまい、それが手に入れたばかりの玉佩（ぎょくはい）についてしまう。すると次の瞬間、宮廷の中にいて、自作でも描いた、皇帝を操り、贅沢三昧で国を破滅させたと伝わる皇后・陸鳶（りくえん）と会う…。

不言を『山河令』『宮廷衛士の花嫁』などのグオ・ジアナン、陸鳶を『原始的な彼女』『紅蓮伝～失われた秘宝と永遠の愛～』などのジャン・ヤーチンが演じる。

中国の大手レビューサイト「豆瓣（douban）」で、10点満点中8.6という高評価を得ている本作。全14話で、1話は約30分であり、長年の中国ドラマファンであれば、その短さに驚くかもしれない。とはいえ、中国では2020年にテレビなどのメディアを監督する国家機関が、ドラマにおいて40話以上の制作を推奨しないとしたこともあって、短編ドラマブームが起きている。じっくりと物語が紡がれていく長編の良さももちろんあるのだが、短編は密度が濃く、テンポのよい展開で物語の世界へと引き込む。

そこに本作は構成のうまさ、おもしろさが加わる。不言が初めてタイムスリップしたとき、悪名高き陸鳶は最期のときを迎えようとしているときだった。そこから不言は何度か現代と過去を行き来することになるのだが、タイムスリップするたびに過去の時間がさかのぼっていくのが独創的。すでに見た事象に潜む謎を考察し、それを確認していく楽しみで次のエピソード再生が待ち遠しくなるのだ。

そして宮廷ものというと、陰謀、裏切り、争いがつきもので、本作もしかり。その中で明らかになる、“妖后”と呼ばれるほどに悪女だと後世に伝わる陸鳶の本当の姿。初めはタイムスリップで取材できると喜んでいた不言は、史実と考えていた姿との違いに戸惑うも、その人となりに惹かれていく。

世界中にある歴史書で完全に事実を書き留めているのはどれくらいあるのだろうか。そこに歴史ロマンがあるともいえる。本作では架空の時代ではあるがそれをふくらませ、男性主人公の歴史小説家というキャラクター設定も生きる。歴史の知識があることで戸惑う一方で、その世界にも馴染んでもいけるが、やがて起こりうることを変えられないかという思いが生まれる。でも、ひとひねりされた時間をさかのぼるタイムスリップによるすれ違いは、2人の恋をいっそうもどかしく、切ないものにしていく。

宿命にあらがいたくなる愛は尊い。ある瞬間に「こうだったのか！」とハッとする気付きが訪れたとき、心が震える。それが大きな魅力でもあり、多くのことに意味があるので見逃すことなく、一筋縄ではいかない2人の恋路を見届けてほしい。ただ、そのあと、最終話から見返してみることもおすすめしたい。今度は不言のタイムスリップが、陸鳶の若いときから始まる形になり、新たな視点と共に物語の余韻を深めてくれるはずだ。

（文・神野栄子）