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ーー青木さんがこれまで手がけた池井戸ドラマのなかで、特に印象深い作品として『空飛ぶタイヤ』(2009年)と『アキラとあきら』(2017年)を挙げてくださいましたが、それぞれについて詳しく聞かせてください。
実は『空飛ぶタイヤ』をつくってから、自分のなかでこれを越えるドラマをつくることが難しくなったというか、そのぐらい完成されていたドラマだと思っていて。
ーーそうだったんですか。
2009年の放送なのでもう16年も前になりますが、今見てもおそらく飽きないで最後まで一気に見られて、なおかつ胸が熱くなる作品じゃないかと。この作品がきっかけでWOWOWの「社会派ドラマ」が浸透していったように思います。

ーー確かに当時はまだそういうジャンルはなかったかもしれません。
こういう社会派の作品にどのぐらいお客さんの関心があるのか、そもそもわかりませんでした。でも、とにかく原作がよくできていて、もちろん感動するし、登場人物それぞれの視点が変わっていく構成も連続ドラマで見せていくにはぴったりだと思ったんです。何より、主人公のどうにもならない感情みたいなものが最終的にどう決着するか、最後まで引っ張る強いチカラがありました。
ーーストーリーの結末は当然ながら、仲村トオルさん演じる主人公を中心とした濃密な人間ドラマにもグイグイ惹き込まれました。
最終的に正直者が報われるところも。きっと『空飛ぶタイヤ』を見てくださった人たちは、社会で生きていくなか、いろいろ困難もあって大変だけど「ちょっと頑張ってみよう」と背中を押してくれるような感覚を持ったんじゃないかと思うんです。
そして、自分もそういうドラマがつくりたかったんだなと、今、振り返ると思います。長くプロデューサーという仕事をやっていますが、社会に出ると不条理なことってけっこう起きるわけですよね。

ーー納得できなくても飲み込まなければいけないことが多くなりますよね。
組織のなかで生きていかなければいけないので、どうしてもいろいろな自分の感情がめぐって、納得できないことって起きるんです。けど、それでも社会で生きていかなければならない。『空飛ぶタイヤ』の主人公も最後まで泣き寝入りせず、決して諦めないので、彼の姿を見ていると、明日からの自分にちょっと勇気が湧くのではないでしょうか。
加えて、WOWOWは若い人より大人の視聴者の方が多く、会社を引退された主婦の方々もいっぱい見てくださっている。主人公だけでなく、妻と息子も一緒になって悲劇を乗り越えていく意味では『空飛ぶタイヤ』は家族のドラマでもあるんです。
ーー「社会派ドラマ」と聞くと難しそうな感じが一見ありますが、実はすごく身近なドラマでもあると。
企業で働いている人たちだけではなく、支える家族側のこともすごく描かれているので、男女問わず受け入れられるような作品でした。池井戸さんの原作がすごくよくできていたし、映像化もうまくいった。それゆえに、これ以上のものがつくれるのか、と、自分のなかでいつも立ち返る原点のような作品です。
連続ドラマW 池井戸潤スペシャル「かばん屋の相続」(WOWOW)