1. TOP
  2. 映画
  3. 洋画
  4. いじめ、貧困…理不尽な社会問題を真摯かつエモーショナルに描いた傑作『少年の君』

いじめ、貧困…理不尽な社会問題を真摯かつエモーショナルに描いた傑作『少年の君』

いじめ、貧困…理不尽な社会問題を真摯かつエモーショナルに描いた傑作『少年の君』
2021年、「第93回アカデミー賞・国際長編映画賞」にノミネートされるほど、高く評価された中国・香港合作映画『少年の君』。いじめ、受験戦争、ストリートチルドレンなど中国で問題視されている題材に、現在42歳の若き監督デレク・ツァンが真正面から挑んだ力作だ。

チェン・ニェンは全国統一大学入試=高考(ガオガオ)を控えて殺伐とする教室で、ただひたすら勉強に励んでいた。そんなある日、クラスメイトがいじめを苦に校舎から飛び降り、自ら命を絶つ。多くの生徒が無遠慮にスマホを遺体に向けるなか、チェン・ニェンがそっと上着をかけたことがいじめっ子たちの鼻についたらしく、今度は彼女がいじめのターゲットとなる。さらに、チェン・ニェンの母親が娘の学費を稼ぐために違法スレスレの仕事をしていたことも拍車をかけ、いじめは度を増していく。そんな中、チェン・ニェンは路上で集団暴行を受けている少年・シャオベイを助けたことをきっかけに、彼に登下校のボディガードを頼む。このことが二人の絆を強くし、そして思わぬ事態を生み出すのだった。

そんな壮絶な主人公二人を体当たりで演じたのは、実力派女優のチュウ・ドンユイと、国民的アイドルのイー・ヤンチェンシー。チュウ・ドンユイは2010年に人気監督チャン・イーモウの『サンザシの樹の下で』でデビューし、可憐なヒロイン役を演じたことで“13億人の妹”と呼ばれる人気女優。2016年にはデレク・ツァン監督作品『ソウルメイト/七月と安生』で、中国版アカデミー賞と言われる「金馬奨」の最優秀主演女優賞をはじめとする賞レースを総なめにした中華圏を代表するトップ女優の一人だ。『少年の君』では高校生を演じているが、実は2022年1月に30歳の誕生日を迎える彼女。撮影をしたのは27歳ごろだが全く年齢を感じさせず、理不尽すぎる状況に対抗できずに幾度となく涙を流す少女性を醸し出している。

一方、ストリートに暮らす不良少年のシャオベイを演じているイー・ヤンチェンシーは、2000年生まれの21歳。5歳で芸能界入りし、映画、ドラマ、CMに加え、2013年に結成された3ピースの「TFBOYS」のメンバーとしても人気を博している。初主演となった『少年の君』では、殴り合いもある泥臭い役に挑戦。初めての経験が多かったそうだが、プロデューサーに「演技かどうか見分けがつかない」と言わせるほど感情を高ぶらせ、怒りも涙も体から湧き出るような熱い演技を見せている。

チュウ・ドンユイとイー・ヤンチェンシーだけでなく、見る者の感情も揺さぶる演出をしたのは、デレク・ツァン監督。俳優・プロデューサーであるエリック・ツァンを父に持ち、デレク自身も俳優として活動。2010年にジミー・ワンと共同で手がけた『恋人のディスクール』で監督デビューし、2016年にチュウ・ドンユイ主演の『ソウルメイト/七月と安生』で単独監督デビュー。つまり、彼は単独監督2作目で、アカデミー賞ノミネートまで上り詰めたのだ。彼の演出は繊細で、「恐怖を抱くより、相手の目的が自分か探る感じ」など感情を細かく指示し、演技が良くても歩き方が違うと厳しく指摘。ストーリー面でも最後の最後までチェン・ニェンとシャオベイがどんな道を選ぶのかが分からず、緻密な構成に引き込まれる。賞レースの審査員たちを唸らせたのも納得の傑作だ。

ちなみにスタッフロールが流れても続きがあるので、最後まで気を抜かないように。

(文・及川静)

コラム 少年の君
URLをコピー
ポスト
シェア
送る
前の記事へ
次の記事へ
宝塚歌劇LIVE配信一覧
BL特集

アクセスランキング

  • 月別アーカイブ