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『コーダ あいのうた』“音楽”と“静寂”という相反するものによって、両方からの景色が見えてくる

『コーダ あいのうた』“音楽”と“静寂”という相反するものによって、両方からの景色が見えてくる
(C) 2020 VENDOME PICTURES LLC, PATHE FILMS
2022年1月に公開された映画『コーダ あいのうた』。高校生のルビーは、父のフランク、母のジャッキー、兄のレオとの4人家族。ルビー以外の3人は聴覚に障がいがあり、彼女が家族の通訳がわりでもあった。夜明けよりも前に起床して、父と兄の漁業を手伝い、その後で学校へ。魚くさいと同級生から揶揄されるのを我慢しながら、漁船の上で父や兄に気兼ねなく大きな声で歌うことで、日頃のストレスなどを発散している。

新学期になり、密かに憧れているクラスメイトのマイルズが合唱クラブに入部するのを知り、ルビーも合唱クラブを選択。そこで顧問の先生がルビーの歌の才能に気づき、名門音楽大学への受験を勧めるが、耳の聴こえない両親はルビーの歌の才能を信じることができず、進学に猛反対。悩んだルビーは、自分の夢よりも家族の助けを優先させようとするが、思いがけない方法で娘の才能に気づいた父フランクが意外な決断を…。

この作品はフランスの映画『エール!』の英語版リメイク作品で、アカデミー賞の作品賞・助演男優賞・脚本賞の3部門を受賞し、サンダンス映画祭でも史上最多の4冠を受賞するなど、多くの賞を獲得している。

物語の中でキーとなるもの。一つは“音楽”と“歌”。人気テレビドラマ「ロック&キー」シリーズのエミリア・ジョーンズが演じる主人公ルビーは、歌うことと音楽が好きな女の子。『シング・ストリート 未来へのうた』のフェルディア・ウォルシュ=ピーロが演じるマイルズは、ルビーが人前で歌うようになるきっかけを与えた重要な人物で、エウヘニオ・デルベス演じる合唱クラブ顧問のV先生は、ルビーの才能を見出し、歌を通して彼女自身をより広い世界へと解放させてくれるキーパーソン。厳しさもあるが、それは彼女の才能をより開花させたいと願う暖かい思いからくるものだということが伝わってくる。
そんな音楽や歌とは対照的な“手話”と“静寂”もこの物語の重要なキーとなっている。ルビー以外の家族、父と母と兄は聴覚障がい者。“手話”を使ってコミュニケーションを取り合い、外の人とはルビーの通訳でコミュニケーションが成り立っている。兄は少し気難しいところがあるが、父と母は明るい性格で、手話を使って下ネタを連発したりしていて、そういうことによって家庭内が暗くならずに済んでいる。高校生のルビーにとっては悩みの種ではあるが。

歌の才能を見出され、ルビー自身も音楽大学に進みたいという思いを抱く。しかし、両親はルビーが歌がうまいかどうか以前に、歌が好きだということすら知らない。“歌の才能がある”と聞かされても、それを確かめる術がなく、信じることができない。

最初に“思いがけない方法で娘の才能に気づいた”と書いたが、物語の前半で「父親はラップが好き。体に響くから」というようなせりふがあり、それがそこに結びついている。ここはぜひ作品を見て確かめてもらいたい場面だ。

もう一つ、見どころを具体的に明かしたいのは発表会の場面。ルビーがマイルズと2人で歌っている時、途中から無音になる。2人は歌い、両親と兄以外の周りの人たちは歓声をあげたり手拍子をしていたりするが、音が一切聴こえなくなる。まさにそこでルビーの家族、特に父親の視点に切り替わった状態が描かれ、“こんなふうに見えていたのか”と目から鱗が落ちた感覚となる。

この物語は障がい者を特別取り上げたものではなく、家族の成長や自立がテーマになっている。相反するものによって両方からの景色が見え、お互いを理解する。“歌”を使い、どの家族でも抱えている問題や課題をわかりやすく表現している作品と言えるだろう。ジョニ・ミッチェルの「青春の光と影」など、多くの名曲と共に、家族愛を描いた物語を楽しんでもらいたい。

(文・田中隆信)

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