立場の違う2人の主人公、ビーム(NTR Jr.)とラーマ(ラーム・チャラン)。敵・味方とかではなく、どちらにも感情移入して観てしまう作品だからこそ、観る側も二倍の体力を使い、二倍のエネルギーを消費、そして2倍以上の楽しさと満足度を得ることができる。リピーターが多いのも頷ける内容となっている。
登場人物や歌曲、ストーリー、アクションなど、注目点も多いが、ここでは監督・脚本を務めたS.S.ラージャマウリに注目してみたいと思う。
1973年10月10日にカルナータ州・ライチュールで生まれたラージャマウリ監督。父親がテレグ語映画界におけるベテラン脚本家で、監督作もあるV.ヴィジャエーンドラ・ブラサードということで、芸術的なセンスなどを大いに受け継いでいるのだろう。CM制作や連続ドラマの撮影に参加する形で映像業界に入り、2001年に『Student No.1』で映画監督デビューを果たした。
運命の巡り合わせか、この作品で主演を務めたのは『RRR』のビーム役、NTR Jr.。この作品が上映日数100日を超えるロングランとなり、デビュー作にして一躍注目される存在となった。もちろんNTR Jr.もこの作品でチャンスを掴みブレイクのきっかけに。監督2作目の『Simhadri』(2003年)でもNTR Jr.とタッグを組み、期待を裏切らない仕上がりでこちらもヒットを記録している。
作品ごとに期待が大きくなっていくが、勢いのある監督だけに、前作をしのぐ物をしっかりと生み出していく。2005年の『Chatrapathi』、2006年の『Vikramarkudu』とスケールの大きな作品を連発し、“ラージャマウリ監督作品”としての品質と信頼を強固なものにした。
NTR Jr.と再び組んだ『Yamadonga』も成功を収めたが、彼の作品はここからさらに面白さが増していく。2009年公開の『マガディーラ 勇者転生』は、4億ルピー(約6億4000万円)という当時のテルグ語映画史上最高の制作費を投じて制作された作品で、400年の時を超えたスケールの大きなラブストーリーであり、並外れたスケールのアクション作品でもあった。VFXなどを駆使し、映像表現も豊かになり、バイクアクションやヘリコプターなどを使った危険なアクションも見どころになっている。ラージャマウリ監督の新たな起点となる本作の主演が、『RRR』のラーマ役を務めるラーム・チャランというのも縁を感じる。ラーム・チャランは南インド映画界の伝説“メガスター”チランジーヴィの息子で、潜在能力を秘めたサラブレッド的存在だったがまさにこの作品で才能を開花。
アクションやストーリーの壮大さ、映像の見せ方など、その後のラージャマウリ作品につながるものも多く、この作品が後に生まれる傑作『バーフバリ』の原点と呼ばれるのも納得できる。
その『バーフバリ』が生まれたのが2015年。三代にわたる壮絶な愛と復讐を描く一大抒情詩は、『伝説誕生』と『王の凱旋』の2連作で共に“完全版”は2時間40分超の時間も中身も超大作に。この作品も、アクション、ラブストーリー、ヒューマンドラマ、そして歌と踊りも含め、全ての要素が詰まったと言っても過言ではない。激流の中、赤子の命だけは守るという強い意志を持つ女性が腕を突き上げ、その子が他の人たちによって救われると“役目は果たした”とばかりに絶命して姿も見えなくなる。オープニングからそんな胸が熱くなるシーンが展開。
『RRR』も然り。オープニングから観客の心と目を引きつけて離さない。過去作も合わせて観ることで“創造神”と呼ばれるラージャマウリ監督の神髄が見えてくるはず。
(文・田中隆信)
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