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『返校 言葉が消えた日』歐陽(オウヤン)ママの注目作品紹介

『返校 言葉が消えた日』歐陽(オウヤン)ママの注目作品紹介
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「日本と台湾は両想い」、それも台湾の一つの側面ではある。でもね、台湾ってその歴史だけを見てもあたしたちが普段あまり考えない出来事がそれはもういっぱいあったわけ。今日はちょっと真面目に、『返校 言葉が消えた日』を通して普段と違った台湾を見てみましょ。
目次

作品紹介

返校 言葉が消えた日

台湾の「戒厳令下」を舞台にした「白色テロ」がテーマの映画

まず、この映画はエンターテイメントとしても十分面白いものとして作られているけど、その背景にある歴史が分かると理解の度合いが全く違うものになるでしょうね。日本の世界史じゃ教わらない歴史、あたしたちの台湾に向ける愛情があれば難しい話もなんてことないわよ。どうして難しいのか。それは一度この作品を見た人なら分かるんじゃないかしら? 見終わった頭にはたくさんの「え?」が浮かぶ。ただの高校生の話でもなければただのホラーでもない。よく分かんない化け物もでてくる。要は、込み入った話であるはずの歴史や人権、自由なんかの問題をどんなふうに物語に落とし込んでいくのかということだから、読んでいく作業が必要になるんだね。ただ、もちろん見て「面白かった!」で終わってももちろんいいのよ、あたしはそういうのも好き。

出演:ツォン・ジンファ、フー・モンボー、ワン・ジン、チョイ・シーワン、リー・グァンイー、パン・チンユー、チュウ・ホンジャン
監督:ジョン・スー

人間と人間の複雑な思いの交錯をどう描いていくのか

ゲームが原作の映画

1962年代の台湾中部、あとで話すけど戒厳令下の学校が舞台の本作。珍しい原作があって、それはホラーゲーム。どうしてわざわざこの時代なのかっていう話も、気にしなければそれまでなんだけど、理由があるのよ。「ディストピア」をテーマにゲームを作ろうとしたところ戒厳令期の台湾との類似点がおおいのに気づいて路線を変更させたそう。このエピソードのとおり、戒厳令期の台湾ってまっすぐに見つめようとするとディストピアみたいに見えてくるのかもしれない。自由で、民主主義があたりまえのような今の台湾からは想像もつかない世界よ、どれだけ理不尽でおかしな世界だったのか、本当に想像すらできないと思う。そういった理不尽さっていうのは作品のなかにも何度も描かれているわ。

俳優陣はまたまたイケメンたち

本作の主演を飾るのは、王淨、曾敬驊、傅孟柏ら。ヒロイン(?)の王淨は中学生だったころに小説家としてデビューするという末恐ろしい俳優。本作のキーワードの一つに「禁書」ってのがあるんだけど、表情っていうかつくりっていうか、文青(文芸青年:文学、カメラ、建築…なんかを愛する文系の若者)っぽい雰囲気はぴったりだと思ったわ。そして曾敬驊はあたしも繰り返して見た映画「君の心に刻んだ名前」で主演、実力派の俳優として有名になったけれど、なんと本作が映画デビューというから驚きよ。視線が異常にセクシーだと思うんだよね。もう一人、先生役の傅孟柏はね、いると安心感のある俳優。なんでもこなす本物の演戯よ。普段の姿(適当といい加減の中間くらい)からは思いもよらないしっかりした役どころ。俳優たちの演戯は必見ポイントの一つよ。

立場が入れ替わり繰り返されていく、目に見えないところにある恐怖

戒厳令と白色テロ

台湾の現代史を振り返ろうとすると必ず出てくる戒厳令、38年という世界で一番長くにわたって敷かれていた。日本でも戒厳令が敷かれてたこともあったんだけどね。簡単に言うと、他の法律で守られている私たちの権利が制限されて、軍部の指揮下に移行、軍法が適用される。そもそもなんでこんなものが敷かれるようになったのかというと、簡単に言うと蒋介石が大陸を取り戻したかったからっていうことに尽きる。国民が相互に密告しあうことも、思想的な統制を行うことも、言論の自由を制限することも、共産党に対抗しなければならなかった1949年当時は「非常事態」の措置としては理解できなくもないんだけど、それが時がたつにつれて反体制派を狙い撃ちするようになる。そして体制側からの自国民に対する弾圧は台湾版の白色テロと呼ばれているし、外省人が外省人に弾圧されることも、当然あった。単純に「AがBをいじめた」と二分化して言えないんだよね。このあたりの複雑さがとっつきづらくする最大の原因じゃないかと思うわ。

劇中に隠された秘密

劇中にはギミックやメタファーがいろいろ仕掛けられている。例えばファンの学生番号493856、こんなの台湾の人でもなかなか気づかないんじゃないかと思うんだけど、1949年に始まった戒厳令が38年と56日続いたことを指していたり、ウェイ・ジョンティンの番号も、白色テロ下で起きたとある事件に関係する数次になっていたり。読書会のメンバーの中には当時の政府によってブラックリストに入れられてしまった実在の人物の名前が書いてあったりね。ところで禁書を読む読書会がきっかけで事件が起きていくわけだけど、禁書に指定されるものってどういうものなのかっていうと、「左翼思想」のもの、「日本語」関連、「公序良俗を乱す」もの。三つ目が実は危なくて、こんなの何とでもいえてしまうものね。そしてギミックというか映画自体の構成の話なんだろうけど、ほら、ゲームが原作でしょう? ゲームってプレイしながら次にどうするのか、どうなるのか考えながら進めていくでしょう? その分映画自体が他の作品より考えることを要求する作りになっているのかも。

映画が描こうとしているもの

あたしははじめ見たとき、やっぱりあの化け物が分かんなかったんだよね。どうしてあの化け物が必要なのか、それもよく分からなかった。ホラー映画だけど、あたしの目には無理があるように見えたから。だけどよく見てみると顔が鏡になってる。鏡に映るのは見ている本人の顔よね。ここでも加害者と被害者の境界線が曖昧になっていく感覚がある。一般には外省人が本省人を弾圧したと思われているんだけど、ファンのお父さんは間違いなく支配階層の人だけど、奥さんの通報で簡単に捕まってしまう。こういう立場の逆転、入れ替わりが白色テロ、戒厳令、この映画の重要なテーマだと思うわ。あなたが私で、私があなたで…そういうことの繰り返しが38年間行われたんだもの。「言ってはいけないこと」、「読んではいけないもの」、「考えてはいけないこと」、簡単に言おうとするとそういうことが1987年まで続いたって、とてつもないことだと思う。あたしたちもそういうことや時代に思いを馳せようとする想像力は失ってはいけないのよ。

2022年は映画をたくさん見る年

あけましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願いいたします。
みんなは新年どんなふうに過ごした? きっとみんなのことだから映画見たりドラマ見たりって過ごしたんじゃないかしら。映画もドラマも好きな欲張りなあたしだけど、何が違うって映画は見終わったら一つの世界が終わるっていうのは大きいわ。本作も見るたびに見え方変わるし。映画ってたいていが複数回の視聴にたえられる作りになってるし、あたし、最近は何度かみることにしてるのよ。今年は映画たくさん見たいな。新年の目標の一つにしようかしら。新たに視点を獲得できるようになるって、素敵なことだし。昔の話を描いているものってどう頑張ったって味わえないその時の空気を追体験できるでしょう? 

執筆者情報

歐陽(オウヤン)ママ

早稲田大学大学院修了。論文のテーマは台湾の文化。
2012年から2013年にかけて台湾で生活、日本語の先生などしてふらふらする。
新宿二丁目では2021年10月から新しいお店「美麗島」をオープン予定。

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歐陽ママ 作品紹介 台湾映画
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