――大阪の夏恒例の「関西・歌舞伎を愛する会」公演が第三十回の節目を迎えますね。
この公演が中座(1999年閉館)で上演されていた頃、(十八世)中村勘三郎のお兄さんが中心になっておられた座組に入れていただき、大きな役をいただきました。大阪松竹座での上演になってからも度々出させていただいています。大阪での「七月大歌舞伎」には特別な思いがありますね。公演が存続できるよう、お役に立てればと思っています。
――昼の部の『八重桐廓噺 嫗山姥』では煙草屋源七実は坂田蔵人時行という二枚目の役柄を。
実は⋯という歌舞伎によくある人物です。煙草屋に身をやつしている源七と、武士の坂田蔵人をくっきり演じ分けて、しっかりと歌舞伎をお見せすることをテーマに勤めたいですね。他の役々も歌舞伎の典型的な登場人物ばかりで、義太夫に乗せてのお芝居でもありますし、歌舞伎を観たという実感を味わっていただける作品じゃないかと思います。
――『浮かれ心中』の太助は、主人公である作者志望の栄次郎の相棒のような存在ですね。
長所も短所もある正直な人間で、そういう人間らしい役、好きですね。井上ひさしさんの作、小幡欣治さんの脚本で、矛盾のある人間らしい人間たちが描かれている。人物に共感や親近感が湧き、笑った後にほろっとできるような、考えさせられるような素敵なお芝居だと思います。栄次郎役の中村勘九郎さんと久しぶりにお芝居できるのが楽しみです。
――『祇園恋づくし』では、中村鴈治郎さんとお互いに二役早替りで共演されます。この作品を、というのは鴈治郎さんからのご提案だったそうですね。
そうなんですよ。ご一緒した『大當り伏見の富くじ』の初演(2012年2月、大阪松竹座)の後に、鴈治郎のお兄さんから「これを二人でやりたい」と言っていただいて。面白い作品なので、ぜひ演らせていただきたいと思っていたのが今回実現しました。
――江戸っ子の指物師留五郎と祇園の芸妓・染香という、対照的な役柄ですが。
真逆の役どころを早替りで変わっていく。楽しみでしかないですね。留五郎はスカッとした江戸っ子の格好良さや粋さをいかに出せるかがテーマ。染香に関しては祇園の芸妓さんの雰囲気を醸し出せるようにと思っています。凄く綺麗で可愛くなるんじゃないですか(笑)。そういう自分しか思い浮かんでいないですね(笑)。
鴈治郎のお兄さんがなさる次郎八という京都を愛している京都の男と、留五郎という江戸を愛している江戸の男を演じる役者の芸を見せる作品。笑いの中に芸の面白さを感じていただけるようなお芝居にしたいですし、鴈治郎のお兄さんとでないとできない新たな『祇園恋づくし』の誕生を目指したいと思います。
――昼夜で合計四役。大奮闘ですね。
三演目で全部初役というのは久しぶりです。プレッシャーを楽しみに変えて、歌舞伎のパワー、人間のパワーが勇気として伝わるように勤めたいと思っています。劇場で楽しい時間を過ごしていただくために、精一杯のおもてなしで、お待ちしております。
――コロナ禍が始まった2020年6月にはご自身の構成・演出で、オンライン歌舞伎「図夢歌舞伎 忠臣蔵」(全5回)を創り出されました。当時どんなご心境だったのですか?
公演が次々中止になって、このままだと歌舞伎が無くなると思いました。そこで原点に立ち戻るといいますか、役者も含めてみんなで一つのものを作って、多くの人たちに観ていただこうと。そのためにはどこでもいいじゃないか、他に歌舞伎を観てもらえる場があるのならという思いでした。その時、お客様が集まらずに一つのものを同時にご覧いただける「配信」というものを見つけて、有志の方たちと一気に作った感じですね。
――名作『仮名手本忠臣蔵』を新たな構成で5回に分けて生配信。どういうご苦労が?
少ない人数で演じるために、大星由良之助や塩冶判官といった六役を事前収録や生の早替りありで演らせていただきました。歌舞伎座で上演する歌舞伎をZoomでというのがコンセプトで、11時開演の舞台を観ているようにというこだわりがあり、あえて11時から生配信しました。(密を避けるため)共演者と別の場所で芝居をして、合成された映像を見ながら目線を合わせたり、お客様を相手役としてカメラ目線で演じたり。映像として何をお見せするのか。色々と難しい部分がありましたし、時間との闘いでしたね。
――第四回の「七段目」では、幸四郎さんのお祖父様で、大星由良之助が当り役だった初世松本白鸚さんの舞台映像と共演されたことも話題となりました。
「図夢歌舞伎」なら祖父の由良之助と、私の寺岡平右衛門の共演ができるんじゃないかと思って、遺っている舞台映像を土台にしてカット割りを考え、夢が実現しました。
――歌舞伎公演が再開された中、「図夢歌舞伎」の今後の展開として、新作というのは?
可能性はあると思います。市川猿之助さんが中心になって作られた「図夢歌舞伎 弥次喜多」の場合は、生配信ではなく映像作品として作られ、私も弥次郎兵衛で出させていただいています。「忠臣蔵」や「弥次喜多」は大作ですけれど、通勤電車の中で見て完結するような15分ぐらいの短編歌舞伎が作れるんじゃないかとは凄く思っていますね。
――コロナ禍になって始まった、生配信のトークベント「歌舞伎家話」の立ち上げにもご尽力され、第1回から度々ご出演されていますね。
歌舞伎俳優の今の顔をお見せし、今の声を聞いていただく場を早く作ることが必要だと思ったんです。Zoomでの対談なら今からでもできるから、とにかくやろうと始まって、それが「図夢歌舞伎」につながりました。「歌舞伎家話」を私がプロデュースしている訳ではないですけど、多くの役者が出られる場として続いて欲しいという願いはあります。今後、朗読劇なのか、コントなのか、芝居を少しでもお見せする企画が加わるといいなと思っています。
作品情報
関西・歌舞伎を愛する会 第三十回 七月大歌舞伎
■昼の部
近松門左衛門 作
一、八重桐廓噺(やえぎりくるわばなし)嫗山姥(こもちやまんば)
荻野屋八重桐:片岡孝太郎
白菊:中村壱太郎
太田十郎:中村虎之介
沢瀉姫:片岡千之助
腰元お歌:中村亀鶴
煙草屋源七実は坂田蔵人時行:松本幸四郎
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井上ひさし 作「手鎖心中」より
小幡欣治 脚本・演出
大場正昭 演出
二、浮かれ心中(うかれしんじゅう)
中村勘九郎ちゅう乗り相勤め申し候
栄次郎:中村勘九郎
おすず/三浦屋帚木:中村七之助
太助:松本幸四郎
大工清六:中村隼人
真間屋東兵衛:中村松之助
佐野準之助:中村亀鶴
番頭吾平:中村扇雀
伊勢屋太右衛門:中村鴈治郎
■夜の部
近松門左衛門 作
村井富男 脚色
大場正昭 演出
一、堀川波の鼓(ほりかわなみのつづみ)
小倉彦九郎:片岡仁左衛門
おゆら:片岡孝太郎
宮地源右衛門:中村勘九郎
お藤:中村壱太郎
文六:片岡千之助
角蔵:中村寿治郎
浄心寺の僧覚念:片岡松之助
磯部床右衛門:中村亀鶴
お種:中村扇雀
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小幡欣治 作
大場正昭 演出
二、祇園恋づくし(ぎおんこいづくし)
中村鴈治郎 二役早替りにて相勤め申し候
松本幸四郎
大津屋次郎八/大津屋女房おつぎ:中村鴈治郎
持丸屋太兵衛:中村勘九郎
持丸屋女房おげん:中村壱太郎
おつぎ妹おその:中村虎之介
手代文七:中村隼人
岩本楼女将お筆:中村七之助
指物師留五郎/芸妓染香:松本幸四郎
大阪松竹座
2022年7月3日(日)~7月24日(日)
昼の部 12:00〜
夜の部 16:30〜