乱世のなかで出会った、男装して生きる弟子と宿命を背負って生きる師匠の結ばれぬ愛が多くの人々を引きつけた。
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ファンタジー小説作家7人によって共同で作り上げられている“九州シリーズ”。架空の9つの州が存在する“九州”を舞台に壮大な史劇が紡がれており、これまでに『九州天空城~星流花の姫と2人の王~』(2016年)『海上牧雲記 ~3つの予言と王朝の謎』(2017年)『九州縹緲録〜宿命を継ぐ者〜』(2019年)などが映像化され、いずれも大ヒットしている。『海上牧雲記~』の200年後の世界が舞台の『斛珠<コクジュ>夫人~真珠の涙~』も開始早々から注目を集め、最終話の配信終了時点での総再生回数は143億回超え。また、人気シリーズだけあって製作のスケールも壮大で、撮影は総面積5万平方メートルのスタジオと200を超えるロケ地で敢行。豪華絢爛のセットや衣装、そして精巧なCGが、荘厳かつダイナミック世界を作り出している。
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物語は、漁師の娘である海市(かいし)が厳しい真珠税を取り立てる将兵らに追われているところに、皇帝警護団の指揮官である鑑明(かんめい)が出くわしたことから始まった。その際、「村を救ってくれるなら、これをあげる」と鮫人族の涙からできたから貴重な斛珠(真珠)を差し出した海市を見た艦明は、彼女に特別なものを感じ、弟子として迎え入れることにする。以来、男として生きる道を選んだ海市は常に男装し、共に暮らす兄弟子の方卓英らと剣や弓矢の腕を磨いてきた。細身ながら武芸に長け、頭も切れる海市は、次々と武功を立てていくが、それと同時に師匠に対する思いも募り、苦しみ始める。一方、艦明は他の弟子以上に海市を気遣うが、師匠としての姿勢を崩すことはなかった。
艦明はもともと皇族の臣下の家の出身で、幼少期から現皇帝の旭帝と共に育ってきたが、“儀王の乱”の際に皇帝が寵愛する皇后を死なせてしまったことから旭帝に怨まれ続けていた。しかし、優れた将兵で信用もできる上に、皇帝が追う全ての傷と痛みを引き受ける“柏奚(はくてい)の契り”を交わしている仲のため、皇帝は艦明を手放さず、皇帝警護団「暗衛営」の指揮官に据えているのだった。そんな折り、前皇后の異母妹の緹蘭(ていらん)が旭帝の妃となるべく大徴に送られてくる。旭帝はもとから新たな妃を迎えるつもりはなかったが、緹蘭が前皇后にそっくりだったことから余計に忌み嫌われてしまうのだった。
皇帝の身代わりという宿命を背負うゆえ、愛があるからこそ海市に冷たくする艦明と、亡き皇后をいまだに愛するからこそ緹蘭を嫌う旭帝。そして、愛憎ゆえにかつての関係性を取り戻せない艦明と旭帝。それぞれに深い愛を抱いているからこそ、容易に歩み寄れない切なさが漂う。また、海市と同じように艦明に救われた兄弟子の方卓英もある女官に恋心を抱きながら、出自の宿命ゆえに引き裂かれていき、恋愛面はもどかしさが募る。だが、それとは対照的に、行政面では艦明と海市らが見事な策略で次々と難局を乗り越え、実に爽快。このバランスが見事で、次の展開の見せ方も上手いので、つい連続視聴してしまいそうだ。
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漁師の娘から武将、そして皇后にまで上り詰める海市を演じるのは、『永遠の桃花~三生三世~』『扶揺(フーヤオ)~伝説の皇后~』などの人気作に出演する中国トップ女優ヤン・ミー。愛らしさと鋭さの両方を併せ持つ海市を熱演し、終盤では民を先導する皇后としての貫禄も見せつける。一方、海市への深い愛を貫く艦明を好演したのは、『酔麗花〜エターナル・ラブ〜』で一途な男を演じたトップスターのウィリアム・チャン。思惑を読まれてはならぬ策士ゆえに常に無表情だが、その奥からは海市への深い愛が感じられ、終盤の捨て身の策には胸が熱くなるはずだ。
また、タイトルに“斛珠夫人”とあるにも関わらず、海市は次々と武功を上げ、いつ女性であることを明かされるのかが読めないところも面白い。最終的には皇后になるが、それはつまり艦明と結ばれないということ。艦明の策らしく、その根底には海市への深い愛があることは間違いないが、一体、どんな狙いからそうなるのか…予測しながら見るのも面白いだろう。
(文・及川静)
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