たくまし過ぎる上腕に、分厚い胸板。1971年生まれのマ・ドンソクは、15歳の時に映画『ロッキー』(1976年)に影響を受け、プロボクサーになるべく体作りを始めたという。その後、アメリカに移住。生活のために働き詰めという苦労をしつつ、大学では体育学を専攻し、パーソナル・トレーナーの仕事も始めて、体を鍛え続けた。その中で芽生えたアクション俳優の夢。韓国映画『天軍』(2005年)への出演が決まると、韓国に戻って俳優活動をスタートした。当時30歳というと俳優としては少し遅咲きになるかもしれない。それからも苦労を重ねながら、社会派作品からロマコメ、時代劇、サスペンスまで、さまざまな役を経験し、ブレイクしたのは準主役的な立ち位置ながら強い男っぷりが見事にハマって日本でもファンを増やしたゾンビ映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2016年)だ。
そして「リアルな刑事アクション作品を」と自ら企画し、実話を基にした物語で主演を務めた映画『犯罪都市』(2017年)が大ヒットとなった。続編『犯罪都市 THE ROUNDUP』(2022年)も韓国で5人に1人が見た計算となる動員数を記録し、今回Rakuten TVで配信スタートする第3作目の『犯罪都市 NO WAY OUT』(2023年)へとシリーズ化。なお、第4作目の『犯罪都市 PUNISHMENT』(2024年)が本国で2024年4月に劇場公開されてシリーズ累計観客動員4000万人を突破し、日本では2024年9月に公開を控える。
本シリーズでドンソクが演じるのは、凶悪犯と対峙する刑事マ・ソクト。『新感染 ファイナル・エクスプレス』でのドンソクの役は“素手”でゾンビを殴り倒していたが、ソクトの武器も素手。相手がナイフを持っていようが、金属の棒を持っていようが、張り手やグーパンチでバッタバタと倒していくのである。刑事ものや、マフィアが登場するというと、ガンアクションが見せ場になることが多いが、本シリーズの基本は肉弾戦だ。街中でド派手な銃撃戦にならないのもリアルといえるかもしれない。
数々の修羅場を潜り抜けている悪人が、ソクトのたった1発の張り手でノックアウトされてしまうのは実に痛快で、演じるドンソクの上腕の太さや体つきで説得力が存分に出る。そして悪人以上にコワモテで、取り調べ中に署内の監視カメラを壊したり隠したりして容疑者に暴力ふるって供述を引き出すなどという掟破り具合も強烈だが、犯罪を許さない刑事の矜持が垣間見えるのがポイントだ。
犯罪の痕跡を追う鋭い視線はコワモテ度がグッと上がる。けれども、刑事として同じチームの上司や後輩刑事たちとのやり取りシーンでは、コミカルさが挟み込まれる。ソクトがからかったり、からわかれたり、愛称“マブリー”の一面が顔をのぞかせて、愛らしくてクスっと笑えるその塩梅が絶妙で、物語の面白さを高める。
ドンソクの夢だったアクション俳優、経験に伴う演技力、そして持ち味である愛らしさも生かされ、俳優としての思いと共に魅力が詰まっているといえる本シリーズ。『犯罪都市 NO WAY OUT』は、人気シリーズとなって抱える多くのファンの期待に応えるグレードアップを実現している。
まずアクション。ソクトが素手で戦うのは変わらないのだが、演じるドンソクが得意なボクシングアクションで、繰り出すパンチの速さ、軽やかなステップを生かした動きで、より見応えのある肉弾戦に。相手をノックアウトさせるワンパンチの重みが増している。
そして、ソクトが1対1で極悪犯人のヴィラン(悪役)と対決するクライマックスが毎作描かれてきたが、今回は2人。ストーリーは、前作から7年後で、ソクトは広域捜査隊に異動。そこで日本のヤクザが関わった新種の合成麻薬が絡んだ事件を捜査する。その1人目のヴィランが、國村隼演じるヤクザの組長に送り込まれた極悪非道な殺し屋リキで、青木崇高が扮する。問答無用で武器の日本刀を振り回すリキは恐ろしくもかっこいい。2人目は、イ・ジュニョク演じる汚職刑事。知的な悪に翻弄されそうになりながらも、最終的に真正面から対決する。2人を相次いで追い詰めていくところはハラハラドキドキだ。
相手をぶちのめしておいて「俺は身体中が痛い」なんて嘆くソクトに、そりゃそうだよと思いつつ、なんだか憎めないし頼りがいを感じる。序盤に上司から小言を言われながら、その顔を映すにはあまりに小さい手鏡を持ってひげをそる場面は、直前に1人でトラブルを鮮やかに解決した強さとの落差に笑ってしまうし、捜査で訪れたクラブの女性客の視線に照れる(本当はダサいと言われている)姿もかわいい。3作目だけでもソクトという人物がよくわかるので物語に入り込みやすいが、最新作の劇場公開が控えるこの機会にシリーズ一気見もおすすめだ。
(文・神野栄子)
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