やさしいメロディと熱い眼差しが心をふるわす、台湾BL『First Note of Love～美しい恋の奏で』（※ネタバレあり）

主人公のニールは6年前のアジアツアー初日にデュオの相方だった兄を事故で失って以来、ステージに立てなくなり、事務所契約更新の危機という苦境に立たされていた。そのため、兄の旧友で今もマネジメントを担当してくれているリースが、ニールを立て直すためにネットで話題のクリエイター・Sea（シー）に楽曲制作を依頼する。その相手が、未来のパートナーとなる大学生の小海だった。

実は小海が音楽を始めたのは、ニールがきっかけだった。ある事情から孤独な少年だった小海は一人で過ごすことが多く、その日も川べりで一人佇んでいた。するとそこに突如ニールが現れ、いくつか言葉を交わした後に「碎日（壊れた太陽）」という曲を聴かせたのだ。「碎日」の静かで美しいメロディとニールの歌声が幼い小海の心に染み込み、それがきっかけで小海は音楽を始める。その彼の曲が、今度はニールの心を動かそうとしているのだった。

ところが事務所で顔を合わせた2人は互いに素直になれず、心とは裏腹にニールは小海を「坊や」と呼び、小海もニールを「時代遅れの歌手」と揶揄してしまう。まさに最悪の顔合わせとなったが、相手を傷付ける発言をしたことが心に引っかかったのか、互いに忘れえぬ相手となり、磁石のS極とN極のように引かれ合う。そうして、第3話で小さなステージに立った2人はユニットを組むことになるが、もともと人付き合いのヘタな2人はまるでコメディのように対立していく。しかし、第5話から登場するニールの旧友で世界的スター・オルカ（ジェーム・カサマ）の出現により、状況が一変。オルカが小海の経験不足を指摘したことにニールが憤慨し、これを機に2人の距離が縮まっていく。

熱く見つめ合ったかと思うと子供のように弁当を取り合うなど、毎話変化するニールと小海の関係はとても愛らしい。そして、それに呼応するようにED曲が変化する点にも注目したい。今作は音楽BLということで、アーティストの小宇-宗念宇が歌う主題歌「我愛、我在（大好きだよ、僕はここにいるよ）」以外にも、兄弟デュオ“マグネット”の代表曲「Ain’t Gonna Stop」、ニールが幼い小海に聴かせる「碎日（壊れた太陽）」、第5話のED曲として流れる「失眠的夜（眠れない夜）」の3曲がオリジナルで制作されているのだが、いずれも心に染みる曲ばかり！原題の「彈一場完美的戀愛」で検索するとOSTが見つかると思うので、ぜひチェックしてほしい。

しかも驚くべきことに、この3曲は全てキャストが歌っているのだ。「Ain’t Gonna Stop」は歌手でもあるニール役のチャールズ・トゥと、兄役のジン・タイヨウ（金泰佑）が歌っている。ジン・タイヨウはアメリカのジュリアード音楽院でバイオリンを学んだ実力派シンガーソングライターで、2人が兄弟デュオとしてセッションするシーンは実に楽しそうだ。そして、「失眠的夜」を歌っているのは、小海の先輩である亭菲（ティンフェイ）を演じる歌手のカイア・リー。彼女のウィスパーボイスがオルカの言葉に傷ついた小海の心を癒すように響き、これまでにないEDとなっているので歌詞の日本語訳を読みながら噛み締めてほしい。

今後はタイ人俳優ジェーム・カサマ（「Gen Y The Series」シリーズ）演じるオルカの恋愛事情も含め、“歌に、恋に”とドラマチックな展開が期待できそうな『First Note of Love〜美しい恋の奏で』。また、目立たないが母親の電話の出ない小海の心の奥底には、ニールとはまた違った痛みが隠れていそう。ユニットとして、カップルとして、ニールと小海が目には見えない“何か”を乗り越えた時、どれほどエモーショナルなパフォーマンスを見せてくれるのか。今から期待しかない。

（文・及川静）