妖怪が棲む世界で繰り広げられる冒険譚『虎鶴妖師録～九尾の虎と四翼の鶴～』（※ネタバレあり）

舞台となるのは、妖怪を退治する“妖師”が活躍する世界で、人々を脅かす妖帝との激戦から500年後。妖帝の血から生まれた冥海によって本来一つだった大陸が伏龍、千羽、巨輪という3つの国に分断された。しかし、冥海の浸食を防ぐために、結界のような働きをする“赤珠”と呼ばれる宝玉を配置した“法陣”を巡らせたことで大陸は守られ、また妖師たちの働きによって平穏が保たれていた。

しかし、ある日、1つの赤珠に亀裂が入り、法陣が揺らいで冥海が決壊する危機が訪れる。100年に一度しか生まれない赤珠を求めて旅立ったのは、若き天才妖師・祁暁軒（チー・シャオシュエン）。赤珠を手に入れた帰り、祁暁軒は虎子（フーズ―）という若者の罠にかかり、赤珠を盗まれてしまう。

神秘的な赤珠の存在から、さまざまな姿形や力を持った妖怪たちの出現という、さっそく胸が高鳴る冒険譚の始まり。主人公は虎子と祁暁軒になるのだが、虎子が暮らした村を離れなければならないエピソードが涙腺を刺激して、物語にさらにグッと入り込むきっかけを作ってくれる。

虎子を演じるのは、『九齢公主～隠された真実～』や2024年に日本公開されたワン・イーボー主演映画『熱烈』などに出演しているジャン・ロン。少年っぽさを残す顔立ちが、この物語の主軸となる役にぴったりで、演技もすばらしい。涙する演技に心をつかまれるほか、豊かな感情表現を見せてくれる。キャラクターとしては、心根が優しく真っすぐで、田舎育ちの青年かと思いきや、実は謎の力を秘めている。その力というのが、祁暁軒の先祖に倒されたはずの最強の妖怪・九尾の虎の力というのがポイントに。

因縁のように虎子と出会った祁暁軒役は、ワン・ホーディー主演ドラマ『蒼蘭訣～エターナル・ラブ～』でヒロインが憧れるキャラクターを演じて日本でもファンを増やしたジャン・リンホー。凛々しい眉にくっきりとした目鼻立ちで、さわやかさ漂うイケメンな姿が、若き天才妖師という存在感を際立たせているのだが、どこか憂いがある様子。それは、のちのち明かされていく宿命が絡んでいるからだ。物語の中盤すぎに、その宿命に関してジャン・リンホーの演技力が発揮されるのも見どころ。

そんな彼らの仲間に加わる、没落した妖師一門の娘・趙馨彤（ジャオ・シントン）を『鳳星の姫～天空の女神と宿命の愛～』などのワン・ユーウェン、神医と呼ばれる王羽千（ワン・ユーチエン）を『寵妃の秘密2～愛は時空を超えて～』などのチェン・ヨウウェイが演じる。

この4人が、実にいいバランスの仲間感なのだ。真っ直ぐに突っ走る虎子と、冷静に力を発揮する祁暁軒、紅一点で熱い心を秘めた趙馨彤、神医といってもちゃんとした医術の心得はなく、煉瓦で人を癒す奇妙な力があり、戦う力そのものは低いものの仲間内でも視聴者側からも癒し的存在となっている王羽千。彼らが笑い合うところにほっこりし、助け合うところに応援したくなる。

虎子と祁暁軒は仲間たちと結束を強めながら、己の謎と宿命に向かっていく。成長には試練がつきものになるが、彼らに悪意を向ける者たちの憎々しさに腹立たしさが芽生えつつ、クスっと笑えたり、ホロリとしたり、ハラハラしたり、驚いたりと、感情をどんどん揺さぶられる。彼らの友情だけでなく、同志の絆、師弟愛や親子愛などがたっぷりと盛り込まれていて、胸が熱くなる物語だ。

（文・神野栄子）

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