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ーー安田さんにとって映像と音楽は密接な結びつきがあると。
安田:そうですね。あと僕らの子どもの頃はビデオじゃなくて「実況盤」(※オリジナルサウンドトラックに加え、キャラクターのセリフなど本編の音声が収録されたもの)という、映画の音声や効果音が収録されたLPレコードがあったんですよ。
水上:え!? そうなんですか?
安田:この間、お客さんがいないときによく行くバーに『カリオストロの城』のLPがあって、それを聴いていたら、全部のシーンとセリフがすぐ頭に浮かんでくるんですよ。(銭形警部の声真似をしながら)「奴はとんでもないものを盗んでゆきました。あなたの心です」とか。
ーー超有名なラストシーンのセリフですね。
安田:(すべて声真似しながら)「無益な殺生はせん」(五右衛門)、「撃ちます」(ジョドー)、「なんて気持ちのいい連中だろう」(庭師)、「あー、ルパンを追っていてとんでもないものを見つけてしまったー。どうしよう」(銭形)。全部浮かぶ。画(え)も浮かぶ。
水上:すげえ…(感嘆のまなざし)。
安田:そのとき、お客さんがもう1人いらっしゃって、僕と同じぐらいで50代の方でしたけど、ポンと音が聞こえただけで、スッと互いに見合って、そのあとのセリフを同時に言った。そんなことが起こる作品を原体験として持っていることがすごい嬉しいですね。
ーーそのほかにはいかがでしょう?
安田:『七人の侍』。うち(北海道)は田舎だったから、単館上映のロードショー作品とか全然来なかったもんだからさ(笑)。
水上:『七人の侍』ってなんであんなに面白いんですか。僕、この間、初めて観たんですよ。
安田:うんうん。
水上:アクションシーンで馬をああいう風に扱ったり、役者があれだけ馬に乗れたりするっていうこともすごいですし。三船敏郎さん(菊千代役)が手にする竹光も、めちゃめちゃ軽そうに見えるし、今ああいう芝居をしていたら「もっと重そうに持て」とか言われそうじゃないですか。
安田:そうだね。
水上:僕、三船さんがああいうキャラクターを演じられると思ってなかったんですよ。もっと寡黙でめちゃめちゃかっこいい、もうそれこそ(ルパンの)五右衛門のような役だと思ってたんですけど、ところがどっこい、こういう男なのかって。
安田:そうなんだよね。(おもむろに)♪チャンチャンチャチャ〜ンチャチャン チャンチャカチャ〜ン、って、曲もすぐでてくる(笑)。
水上:あと、志村喬さん(勘兵衛役)。あの方もすごいですよね。僕、『七人の侍』を見て『生きる』も観ました。
安田:僕が聞いた噂では、全編引きで本物の戦をやらして、矢が刺さったままでも撮影を続けたっていう。本当なのかどうなのかわからないけど。あと、雨が墨汁だったとかね。さっきは熱量の話をしたけど、作り手、クリエイターにとって一番必要なものってのは、やっぱり“思想”だと思うんだ。
水上:はい。
安田:三船さん演じる菊千代は本当は侍ではなく、百姓の出なんだよね。刀を持って武士のフリをしている。で、勘兵衛たち本物の侍の前で、百姓あがりの自分の中のトラウマとか曖昧さをさらけ出して必死になって「百姓ってのはな! ケチンボでずるくて泣き虫で、意地悪で、間抜けで、人殺しだ! だがな、そんなケダモノつくりやがったのはいったい誰だ! おめえたちだよ!」と叫ぶ。あそこはもう素晴らしい名シーンですよ。
そしてすべての戦いが終わったときに、志村喬さんが言う「勝ったのはあの百姓たちだ。わしたちではない」というあのセリフ。思想の見事さ、脚本の作り方、あれがやっぱり、うん、「作品」ですよ。全部喋っちゃったな。ごめん(笑)。
ーーでは、水上さんのオススメするエンタメ作品は何でしょうか?
水上:高校のとき、卒業間際でもう授業も特にないっていうある日、じゃあ映画見よっかって理系の先生が言ってくれて、授業中に映画を観たことがあって。僕らは授業サボれるから喜んだんですけど、そこで見たのがクリストファー・ノーラン監督の『インターステラー』でした。
それで僕、クリストファー・ノーランが好きになったんですけど、僕個人的に『オッペンハイマー』より『インターステラー』の方が人間の“ノイズ”みたいなものを感じられるんですよ。
安田:うん。
水上:『オッペンハイマー』も確かに見事だったんですが、僕は人間の“ノイズ”のようなものを『オッペンハイマー』からはあまり感じられなかった。あくまで僕は、ですけど。僕も芝居でセリフがうまく言えないときがあったりしますけど、思いがしっかり込められていれば、何かしらの不完全さがあったとしても、僕はそういったものを感じたいし、楽しみたいし、受け入れたい。その意味で『インターステラー』のほうが好きですね。
連続ドラマW 怪物
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