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510482 (C)2024 映画『ラストマイル』製作委員会 https://tv.rakuten.co.jp/content/510482/
主人公は、巨大物流センターに新任センター長としてやってきたエレナ(満島ひかり)。彼女は、どこか傍観者的な距離感を保ちながらも、爆破事件の渦中で「自分は何を信じ、何に責任を持つべきか」を問い続けるが、その問いかけはそのまま観客への問題提起となる。
野木はこの作品で、物流という見えにくい労働の裏側に潜む無数の「他者の人生」を可視化した。誰が箱に詰め、誰が届けてくれるのか。爆弾を仕掛けた犯人の動機すら、単純な復讐や憎悪として描かず、制度の歪みによって置き去りにされた“声なき者”として扱う。観客は事件の真相を追いながら、否応なしに「自分が見ようとしなかったもの」に直面させられるのだ。
474433 『カラオケ行こ!』(C)2024『カラオケ行こ!』製作委員会 https://tv.rakuten.co.jp/content/474433/
この“想像力を喚起する仕掛け”は、彼女の過去作にも通じる。たとえば2024年に公開された映画『カラオケ行こ!』。ヤクザの若頭・成田狂児(綾野剛)と中学生の合唱部員・岡聡実(齋藤潤)という奇妙な取り合わせの中で展開される本作も、コメディの装いながら、その実、人と人が“違う存在”として出会い、互いの背景を少しずつ想像しながら理解し合っていくプロセスを描いた。そこにある、無理に分かり合うのではなく理解しようとする姿勢は、まさに“想像力”の本質だ。
381149 『図書館戦争』(C)”Library Wars” Movie Project https://tv.rakuten.co.jp/content/381149/
また、岡田准一、榮倉奈々主演の映画「図書館戦争」シリーズでも、野木は「自由」を守るために戦う人々の姿を描いたが、それは単に正義の戦いという枠にとどまらず、検閲や情報統制といった社会的テーマの中で、登場人物たちは「何を信じ、どう選択するか」を問うていた。『ラストマイル』におけるエレナの選択も、“正義”というより“責任”の側面が強い。彼女は制度の犠牲者として留まるのではなく、制度の中で自らの想像力と判断力を行使しようとする。
『ラストマイル』の終盤にエレナがある重要な決断を下すが、そこには「誰かを助けたい」というシンプルな動機と、「見過ごしてはいけない何か」に対する誠実さが込められている。このような「人としてどう在るか」に野木脚本の真価が宿っているのではないだろうか。野木亜希子の脚本が観客を惹きつけてやまないのは、彼女が常に「人が他者を想像する力」を信じているからだ。
『ラストマイル』は、単なる事件の真相を追う映画ではない。私たちが日々利用する“便利さ”の裏側に、どれだけ多くの労働と感情と決断が積み重なっているかを、静かに、しかし確かに教えてくれる。そしてそれらを正しく作用させる源が“想像力”だと語っている。
さらに『ラストマイル』には、野木作品のファンにはたまらない遊び心も仕込まれている。ドラマ『アンナチュラル』、『MIU404』という、『ラストマイル』と同じく塚原あゆ子監督とタッグを組んだ野木作品のキャラクターたちが登場するのだ。『アンナチュラル』のミコト(石原さとみ)をはじめUDIラボとその面々、そして伊吹(綾野剛)と志摩(星野源)のデコボココンビと『MIU404』の警察の面々。別々の作品のキャラクターたちが、同じクリエイターたちが生み出す同じ世界線に生きているなんて、ファンなら思わずニヤニヤしてしまう。
エンタメの枠組みを崩すことなく、その中に社会的視点と人間の本質を詰め込む。野木亜希子は今、脚本家という枠を超えて、時代と対話する表現者として進化を続けている。
https://news.tv.rakuten.co.jp/2025/08/250801new-contents.html 【Rakuten TV】新着映画ラインナップ(2025/7/25〜2025/7/31)
(文・坂本ゆかり)
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