3月11日(金)に「第45回日本アカデミー賞」の授賞式が開催される。同賞は、米国アカデミーの正式許諾を得て、1978年に第1回が行われた。以来、「映画芸術、技術、科学の向上発展のために」という目的のもと、その年度の優秀作が選ばれてきた。今回、Rakuten TVで配信中(プレミアム見放題パック内の作品を含む)の最優秀賞受賞またはノミネート(優秀賞)された作品の中から、実際に起きた事件を基にした、あるいはモチーフにしたものを紹介。社会の闇に心をえぐられる思いになるが、俳優陣の熱演や作り手の思いが詰まった力作ばかりだ。
第26回で主演男優など9部門にノミネートされた『突入せよ!「あさま山荘」事件』。1972年2月に長野・南軽井沢の山荘に連合赤軍のメンバーが立てこもった事件を、警察サイドの目線で描いた。主演を務めた役所広司は、言わずと知れた名優。2022年の第45回でも実在した人物をモデルにした『すばらしき世界』で優秀主演男優賞にノミネートされており、登場するだけで画が引き締まる存在感を放つ役所の魅力を、過去作でもチェックしてみては。
『凶悪』は、第37回の助演男優賞にリリー・フランキーとピエール瀧が選ばれた。リリーは同賞にW選出されていた『そして父になる』で最優秀賞となったが、その作品で良き父であった様子とは打って変わって、本作では初の悪役で、演技の振り幅を見せた。物語は、瀧扮(ふん)するヤクザの死刑囚が、関与した殺人事件の首謀者であるリリー演じる“先生”の存在を雑誌記者に暴くように依頼することから始まる。上申書殺人事件といわれているもので、ノンフィクション小説「凶悪 ある死刑囚の告発」(「新潮45」編集部)が原作だ。リリー、瀧の悪役ぶりは強烈だが、主人公の記者を演じた山田孝之も、事件にのめり込んでいく姿にスゴみが出ている。
381059 (C)佐木隆三/2021「すばらしき世界」製作委員会
妻夫木聡が最優秀助演男優賞に輝いた第40回の『怒り』。原作は、吉田修一が2007年に起きた英国人女性殺人事件をきっかけに書いた同名小説だ。逃亡中に整形した犯人が物語の鍵。千葉、東京、沖縄に現れた素性の知れない3人の男。彼らと関わった人々は、1年前に発生した東京・八王子の凄惨な夫婦殺人事件の手配写真を見て、疑惑を抱く。犯人が3人の男それぞれに絶妙に似ていて、見る者も惑わせながら、“信じること”を問い掛ける。3カ所での物語がクロスオーバーして描かれていくのだが、散漫にならず、むしろ引き付けていく巧みな構成だ。妻夫木は、東京編で謎の男・直人(綾野剛)と関係を深めていく同性愛者を演じた。
214446 (C)2016映画「怒り」製作委員会
『怒り』に出演した綾野は、同じ第40回において主演作『日本で一番悪い奴ら』でノミネート。同作で描かれたのは、“日本警察史上最大の不祥事”といわれた2002年に北海道県警で発覚した事件。綾野演じる刑事が裏社会の捜査協力者を得るが、次第に悪事に手を染めていく。役ごとにがらりと印象が変わり、“カメレオン俳優”とも呼ばれる綾野。『怒り』とはまた違う表情に驚くに違いない。
214454 (C)2016『日本で一番悪い奴ら』製作委員会
最後に紹介するのは、塩田武士の小説を原作にした『罪の声』。2021年の第44回で10部門にノミネートされ、野木亜紀子が最優秀脚本賞を受賞した。モチーフとなったのは、未解決のまま時効を迎えてしまったグリコ・森永事件。毒入り菓子が店頭に置かれるという、身近な恐怖に多くの人が身震いした事件だ。小栗旬が35年以上前に起きた事件の真相を追う主人公の新聞記者を、星野源が幼少時に図らずも事件に関わっていたことを知るテーラーの男性を演じている。あくまで架空の物語だが、史実が織り込まれた展開にリアルさを感じながら、正義と罪に対する内なる“声”に考えさせられる。
379649 (C)2020 映画「罪の声」製作委員会
(文・神野栄子)