そして、Rakuten TVで配信している宝塚歌劇団の作品から、おすすめ3作品をセレクトしてもらい、それぞれのセレクト理由や思い出を語ってもらった。
(写真・文:岩村美佳)
――『The ALSTROEMERIA-アルストロメリア-』の内容を考えるうえで、一番大事にしたのはどんなところですか?
今しかできない挑戦を考えました。今まで、宝塚の男役しかやってこなかったので、女性としての変換期である今だからこそチャレンジできることや、今しかない魅力が、色々なジャンルを通してお見せできるんじゃないかと思います。懐かしい曲にも挑戦します。
そして、男性がいる舞台は初めてなので、男性ダンサーさんたちとの相乗効果でどんなものが見えてくるのか、皆さんがいてくださるおかげで私は女性っぽく見えるのかなど、色々な発見があると思うので、今しかない魅力みたいなところは、恐ろしくもありながら、面白いところでもあると思います。
――具体的な希望は何か出しましたか?
畏れ多くもタンゴに挑戦してみたいと思ったので、希望させていただきました。
――男性と組むのですか?
どっちだと思いますか?
――え!? どちらでしょうか……三井聡さんと組まれるのかなとか。
私が、芽吹(幸奈)たちを振り回しているかもしれないですし、ご想像にお任せします(笑)。
――楽しみにしています。他にもリクエストしたことはありますか?
色々な曲を歌いたい、この曲で踊りたいというのは、いくつかオーダーさせていただきました。ヤン(ANJU)さんご自身が提案してくださったものもあります。やはり、自分だけでは生み出せないものがあると思いますので、ヤンさんの魔法にかかって、引き出していただけるのではないかと思います。しっかり準備して挑まなければいけないですが、すごく楽しみです。
――ANJUさんとは、『Greatest Moment』でもご一緒されましたよね。すごく楽しまれていらっしゃるのではないかと、舞台を拝見して感じましたが、いかがでしたか?一緒に踊られましたよね。
信じられない瞬間ばかりで、慣れることがない日々でした。全てが新鮮で、全部の瞬間、例えば楽屋ですれ違った際に「おはようございます‼(緊張)」とか、一切慣れないんです。
袖でも、なぜこの方が舞台袖を歩かれているんだろう、私がなぜ同じ袖に立てているんだろうと考えていました。袖からのアングルで上級生を見たことがないですから。舞台で同じ時間を過ごしていないので、皆様のパフォーマンスを袖で観られるのは今しかない経験だと思い、楽屋に戻らずずっと見ていました。それぐらいに幸せでした。バージョンによって、色々なナンバーを踊らせていただきましたが、畏れ多くも5人組(ラ・コンパルサ『ファンシー・タッチ』)の1人で踊ることができて、毎日踊る度に、何が起こっているんだ!と思いながら踊っていました。
――ANJUさんがトップの時の名場面でしたね。
錚々たる皆様のお背中でしたが、おこがましいですが、一緒に踊っていてヤンさんの背中が一番見覚えあるんですよ。振付でいつも見ていましたから。
――宝塚でANJUさんの振付を受ける際に、前で踊ってくださる背中をご覧になっていたわけですね。
だから5人組で並んだ時に、「ヤンさんがいる!」と思って(笑)。知っている背中という不思議な体験をしました。
――今度はANJUさんに演出をしていただきますが、どんな感覚ですか?
私も初めてのことで、どんな内容にしたらいいだろうかと思った時に、現役時代の私を知ってくださっている方は、すごく心強いんじゃないかという思いもありましたし、女性としてもパフォーマンスがすごく素敵で。振付にいらっしゃる姿もカッコいい、「じゃ、お疲れ」と帰っていく様もカッコいい、すべてがカッコいい。ヤンさんの振付を受けられる喜びもありますし、ナンバーがカッコいいことも知っているので、男役としても女性としても「カッコいい女性」として、ヤンさんが思い浮かびました。私自身も変化の時にあって、まだ女性としての引き出しが全然ないので、ヤンさんから色々なものを見ていきたいですし、学びたいと思いました。
――瀬戸さんが、ANJUさんに演出をお願いしたいと希望されたのですね。リクエストするのは、結構勇気が要ることですよね?
とんでもないことだなとは思ったのですが、悩まれた末、引き受けてくださいました。
自分から声を上げられたのは、自分でもよくやったなと。ゲストの方もそうですが、皆さんが引き受けてくださったことが、幸せでならないです。こんなに光栄なことはないと思います。
――ゲストの真琴つばささん、真飛聖さんも、ご自身で希望されたのですか?
そうです。
――おふたりとはどんなお話をされましたか?
真琴さんからOKを頂いた時も、最初は本当に信じられませんでした。『Greatest Moment』で、私は1回成仏しているのですが、またこんなことが起きていいのだろうかと。『Greatest Moment』の時も一緒に踊らせていただけるとは思ってもいませんでしたので。
――『Greatest Moment』に出演するからといって、ご一緒する場面があるかはわからないわけですよね。
またこうして出演していただけるのは、本当にありがたいことだなと思うので、私からの溢れる想いみたいなものをしっかりとお伝えします。女優さんとして色々活動してこられて、変わらずカッコいい先輩のおひとりでもいらっしゃるので、一緒に何かを作ることができる時間があるのは、本当に光栄だと思います。自分がこの経験を忘れられないように、細胞までちゃんと記憶させて、この時間を楽しまなければいけないと思っています。
――真飛さんがコンサートに出演されるのも、とても驚きました。
引き受けてくださいました!私も驚きました。お礼のご連絡をさせていただいたのですが、退団してから、ご自身もコンサートを長らくやっていないので、「ほぼトークショーになると思うよ」って(笑)。
――それはそれでいいと思います(笑)。
それはそれで楽しみで、ゆうさん(真飛)と喋りたい!退団されてもなお活躍されている今のゆうさんと、私が初めてコンサートをさせていただけるタイミングでご一緒できるのも何か意味があると思います。
お二方と一緒に過ごせるコンサートで、どんな自分でいるのか、私も楽しみです。私自身がお二方のものすごくファンですから、「舞台でパフォーマンスする瀬戸かずや」と「宝塚で一緒に舞台を作り上げてきた先輩との瀬戸かずや」とは見え方が全然違って、己の在り方が違うなと思ったんです。
――そうすると、どちらの瀬戸さんも拝見できるかもしれませんね。
またそれが面白いのではないかと思いますし、色々変化していく様も、新しいのではないでしょうか。私も楽しみです。
――皆さんに伝えておきたいことはありますか?
男役ではない「瀬戸かずや」として進んでいくにあたり、ちょうど節目というか、何かきっかけになる作品になるのではないかと思います。変化していく、新しく発見していく「瀬戸かずや」が私も楽しみですし、その思いを皆様に届けられることも楽しみです。こんな世の中ではありますが、少しでも皆様の心に触れる、心が届く、そんなステージにできたらいいなと思うので、変化していく私を楽しみにしていただけたらと思います。
瀬戸さんのおすすめ作品はこれだ!
瀬戸さんのおすすめ3作品は、
・『グレート・ギャツビー-F・スコット・フィッツジェラルド作“The Great Gatsby”より-(’08年月組・日生)』
・『宝塚幻想曲(’15年花組・東京・千秋楽)』
・『For the people -リンカーン 自由を求めた男-(’16年花組・ドラマシティ)』
『グレート・ギャツビー-F・スコット・フィッツジェラルド作“The Great Gatsby”より-(’08年月組・日生)』
https://im.akimg.tv.rakuten.co.jp/content/90/07/60970/main.jpg (c) 宝塚歌劇団
――セレクトしてくださった3作品ですが、どういう思いで選ばれましたか?
『ギャツビー』に関しては、私の名前「瀬戸」の「瀬」は、瀬奈(じゅん)さんから勝手に頂いたくらい、男役の教科書だと思っている方です。瀬奈さんが演じる『ギャツビー』が途轍もないんですよね。男役の色々なものが詰まっているので、いざという時に見返したくなります。私が困るといつも見ていた、とっても思い入れが強い、迷った時に助けてもらう作品みたいなところがありました。
――宝塚時代に男役を研究するときに見た作品ですか?
「ああ、男役ってこうだよね」と思いつつ、「ここのこれが好き」「そこの角度が好き」「でも、そうなるにはどうしたらいいんだろう?」と思いながら見ていたり、ただファンの気持ちで見ていたり、色々でした。だから、観る時によって全然違いました。
――楽しむ時もあれば、勉強のために見る時もあったのですね。特にどんなところが勉強になりましたか?
衣裳の着こなしや、男性としての佇まい、愛する人を思う懐の深さのような目に見えない大きさみたいなもの、あの切ない顔、コートを羽織っても……もう言い出したらキリがないです!
コートさばきが素敵ですし、そこで踊っているダンスナンバーが一つ一つカッコよく、同じ歌なのに喜びから苦悩の歌い分け、何でこんなに違うんだろうとか。
――すごく具体的にたくさん挙がりますね。
ずっと見てしまうんです。カッコいい、何でだろう、カッコいい、何でだろう……って。
――男役を終えた今見ると、いかがでしょうか。
多分ファン目線に戻ると思います。
――おすすめポイントはありますか?
もう全部です!!!(満面の笑みで)ここって言えないなあ……。
――完成度の高い良い作品でもありますよね。
そうなんです。幻想シーンもすごく悩ましいですし、すごい作品を作られたんだなと思います。当時から衝撃を受けました。見返してもやはりゾクゾクしますね。
宝塚幻想曲(’15年花組・東京・千秋楽)
――次は、『宝塚幻想曲』です。
一番大変だったショーで、忘れられないショーのひとつです。この作品で初めて海外(台湾)公演に行かせていただいたのですが、先生方の想いがとても大きくて、各場面がMAXの状況でした。あの経験があったから次も頑張れる、そんなベースメントになりました。「我々は『幻想曲』乗り越えたもんね!」みたいな、本当に忘れられない作品です。最後の黒燕尾などは本当にすごいんです。
――改めて拝見して、この黒燕尾はすごいなと思いました。
ずっと踊り続けてきて、フィナーレであれが来るのが……。あの時はいつも血の味がしていたんです。走りすぎて。
――血の味!? どこからその血は出るんですか?
喉でしょうか。走った時に、乾燥していると、血の味がしませんか?
――私はそんな経験はありませんが……。
えー!? どうして経験ないんですか!? 血の味! 何でだ!!!
(現場爆笑)
これはヤバいというところから、更に10歩先まで行かされるみたいな状況です。
――タカラジェンヌはみんな経験していることですか?
容赦なくありますよ。劇場はめちゃくちゃ乾燥しているのですが、舞台で呼吸していると喉がカラッカラになって、頑張り過ぎちゃうとちょっと血の味がするんです。冬の長距離走った後とか、そうなりませんか? 小学校の頃とか。
――私はないです…経験がある方もいるのだと思いますが。
そうですか……。見た感じは大変そうに見えないのが辛いですが、本当にみんなで繋いだ、パワーのある作品だと思うので、忘れないでほしいなと思っています。
――きっと出演されていた皆さんは同じ思いですね。
当時の組長さん(高翔みず希)が一番階段を走っていて、下りて上ってと一番の運動量で、“登山部”って呼んでいました。袖をぐるんぐるん、階段をぐるんぐるん、「そういえば、あの人さっきまでここにいたよね。」という見方をするとすごいです。
――確かに、あのシーンに出ていたのに、何でここで踊っているの?と思いました。
そういうことが山盛りありましたが、笑顔で「それぐらい何ともないですよ」と、やっていました。
――花組の総力戦を見られる作品ですね。
明日海(りお)さんがすごく力強く引っ張ってくださっているので、ぜひぜひ見てほしいです。
For the people -リンカーン 自由を求めた男-(’16年花組・ドラマシティ)
――そして、『For the people -リンカーン 自由を求めた男-』を選んでくださいました。
こんなに心が震える作品に出会えたことが嬉しいです。しかも全員が、本当にその時を生きて、本当に涙して、本当に心を動かしていました。自分の出番ではない時は、袖でずっと轟(悠)さんの芝居を眺めて、自分の中で自分の役割を高めて、というすごい空間だったんです。途轍もない作品に携わることができたあの日々は、宝塚人生の中でも、とても嬉しい出来事のひとつであり、ありがたい経験のひとつです。特に大統領選を争う場面が忘れられません。
――ディベートのところですね。
ディベートで私が負けて、リンカーンさんがセンターで、初めて作品の中で髭を生やして、シルクハットを被って舞台上に出てきた時に「わっ!本物だ!教科書の人だ!」と思って、見惚れてしまって。「うわぁ……本物……生きているんだ……」と引き込まれてしまい、前を向くのを忘れていたんです。
――本番中にですか?
はい。「あっ!」と我に返るくらい、圧倒的存在感で本当にすごかったですね。
――本当に素晴らしい作品で、引き込まれたのをよく覚えています。
すごく良くできていて、面白かったですよね。
――読売演劇賞の各賞を受賞されましたね。そういう意味でも、多くの方に認められた作品だったと思いますが、あの受賞は皆さんで分かち合ったのですか?
そうですね。授賞式には全員では出られませんでしたが、代表で轟さんが行ってくださって「頂いたよ」とご連絡をいただきました。携われていることが、本当に幸せでした。誇りです!
――その作品を見ていただきたいですね。
ひとりひとりが輝いていますから。
――轟さんとライバル的な役を演じるのは、いかがでしたか?
どうしたら同等に並べるのか、ということは一番の課題でした。でも引いていたら大変失礼だなと思ったので、挑もうと思いました。
――轟さんの言葉など、記憶に残っているものはありますか。
存在すべてですね。轟さんとご一緒するからには、何とかして轟さんの作品を仕上げていきたいと思っていたので、必死に台本を覚えて、すごく早く台本を離したんです。そうしたら、「みんな早い!私しばらく無理かも。ゆっくりで行くわ」とおっしゃっていたのですが、いつのまにか追い越されて、全然追いつかないところへ行ってしまいました。「やはりすごいな、敵わないな」と、その偉大さを目の当たりにした作品でもありました。あの経験は後の自分にとっても、本当にすごく大きかったです。
作品情報
Kazuya SETO 1st concert『The ALSTROEMERIA -アルストロメリア-』
構成・演出・振付はANJU。宝塚歌劇団元花組トップスター安寿ミラが初演出を手掛ける。
スペシャルゲストに元月組トップスター真琴つばさ、元花組トップスター真飛聖が出演。
歌、ダンスもふんだんにバラエティ豊かなコンサートをお届け。
ANJUによって生まれる瀬戸かずやのまだ見ぬ新たな魅力に乞うご期待!
●出演:
瀬戸かずや
三井 聡、芽吹幸奈
笙乃茅桜、井上弥子、大場陽介、中島康宏
真琴つばさ(スペシャルゲスト 東京:5月1日(日)13:00、大阪:5月7日(土)13:00出演)
真飛 聖(スペシャルゲスト 東京:4月30日(土)13:00、17:00出演)
●構成・演出・振付:
ANJU
【東京公演】
2022年4月29日(金・祝)~5月1日(日)サンシャイン劇場
【大阪公演】
2022年5月6日(金)~5月7日(土) 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
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