前編では作品への挑戦を決めた想いや印象などを聞いた。そして後編では、Rakuten TVで配信している宝塚歌劇団の作品から、おすすめ作品をセレクトしてもらい、それぞれのおすすめポイントや思い出を語ってもらった。
(文:岩村美佳)
https://news.tv.rakuten.co.jp/2023/06/sakihimiyu02.html 【後編】咲妃みゆさんインタビュー:『少女都市からの呼び声』出演
ーー咲妃さんにとって初のストレートプレイになりますが、今回のお話があったときの心境をお聞かせください。
念願叶ってストレートプレイへの出演が決まり、とても嬉しかったです。それと同時に、私にとっては大変難しい作品、お役をいただいて、今意気込み十分なんですが、これからお稽古を重ね、そして本番を迎えて、自分自身がどうなっていくのか、本当にわからないことがたくさんあるのでドキドキしています。
ーーストレートプレイの中でも、唐さんのアングラ演劇で、しかも金さんの演出となると、なかなかハードルが高いと思いますが、それを受けようと背中を押したのはどんなことでしたか?
一番は、所属させていただいている事務所の方々が、大いなる挑戦になると思うけれども、チャレンジする価値がきっとあると背中を押してくださったことです。私自身、仕事でも、私生活でも、いろいろな物事に挑んでいきたい気持ちがあるので、やれるだけのことはやってみようと思いました。一緒にお仕事させていただく方々の熱い想いが、私に力をくださってるのが大きいです。
ーーアングラ演劇に対するイメージや印象があったら教えてください。
ー筋縄では理解ができないほど、深い深い世界という印象を持っています。同じく唐さんの作品で、金さんが演出されていた、『泥人魚』を拝見したときも、ただただ衝撃を受け、気づいたら終演していたという記憶があります。舞台美術にも魅了され、美しさと、複雑さと、透明さと、不思議さと、恐怖と、いろいろなものが混ざり合った世界という印象を受けています。表現が正しいかはさておき、まるでこの世界そのものだなとも思うので、きっといろいろな発見が待ち受けているに違いないと思います。
ーー脚本を読まれた印象はいかがでしたか?
わかりません!理解が追いついておりません!少々焦りを感じておりますが、焦っても仕方がないので、お稽古で洗礼を受けるその日を覚悟して待っております(笑)。内容を理解しやすい作品も素敵だなと思いますが、どうなっていくんだろうとか、わけがわからない戸惑いがつきまとう作品こそ、すごく魅力的だなと惹かれるので、この感覚を大切にしながら、やっていきたいと思っています。
ーー唐さんだから、言葉がとっても美しいですよね。
それは感じました。どこかしら古風な表現が織り交ぜられています。単語一つひとつ、そして人物が発する語尾に素敵な表現が散りばめられていて、きっとあえてこの言葉を選んでいらっしゃるんだろうなと思うと、直にお話を伺ってみたい気持ちが高まります。
ーー金さんとお会いになったそうですが、印象をお聞かせください。
初めての世界に飛び込む私を優しく受け入れてくださって、ビジュアル撮影の際は優しくお声がけくださいました。いろいろな方々から、役者の挑戦を全部受け止めてくださる素敵な演出家さんであり、現役の役者さんでもあり、すごく素敵な方だよと伺っていて、本当にそれは数時間ご一緒させていただいた中でも感じることができました。わからないことを包み隠さずご相談できることがとてもありがたいです。
ーー安田さんにはどんな印象を抱いてますか?
まだお会いできていないのですが、すごくストイックな方という印象を受けております。安田さんを知る方々から、大変素晴らしい熱意のあるアーティストさんだよと伺って、いつかご一緒したいと思っていた矢先の共演で、大変楽しみです。たくさん勉強させていただきたいと思っております。
ーー共演者の方々もミュージカル界の方が少ないと思いますが、どう感じていますか?
本当におっしゃる通りですね。楽しみです。皆様お一人お一人のお稽古に向き合われるお姿も、一切想像ができないので、多分お稽古場に入らせていただいて、しばらくは目が点だと思います(笑)。いち早く呼吸ができる環境を自分で頑張って整えて、皆様にしっかりとついていきたいなと思いますし、ついていくだけではなく、やはり作品の中でも重要な鍵を握るお役をいただいていますので、ちゃんと学ばせていただく精神は保ちつつ、きちんと対等に、同じ土俵で作品を作り上げていけるように、頑張りたいです。今お話していて、心拍数が上がってきちゃったのですが、ご一緒してみたかった方々ばかりなので嬉しいですね。こんなに嬉しいことはありません。
ーー今回演じられる役<雪子>と、咲妃さんとの共通点や、共感できるポイントはありますか?
この戸惑った表情のままを受け取っていただけたらと思うのですが……(苦笑)。台本を読ませていただいた印象をお話しすると、雪子という少女は、この世に存在できなかった人物なんですね。そんな中で、愛とは?生きるとは?人間の現実世界ってどんなところだろうなど、いろいろな知りたい、行ってみたいという欲望を持った女性だと感じます。強い生命力を雪子から感じ、その生命力の強さなどは、きっと私の中にもあるなと思うので、今の段階では、それほどかけ離れたお役だとは感じておりません。すごく魅力的な女性だなと思いますし、感情をそのままに伝える少女という印象を持ったので、自分の中でこねくり回さず、まずはいただいた雪子のセリフを感じ、その中で見えてくるものを大事にしながら向き合っていきたいと思っております。
ーー宝塚トップ娘役時代は<雪組>でしたが、<雪子>ということで、何かその辺に想いなどありましたらお聞かせください。
そうですね!<雪>という文字にご縁がありますね。すごく温かい気持ちになりました。歌劇団時代に雪組に所属していた頃は、すごく幸せな時間もありましたが、自分自身の課題にもたくさん直面し、チャレンジの連続でした。<雪子>を演じさせていただくことも大きなチャレンジとなります。これまで培ってきた経験を活かせるところは活かしつつ、一方で、雪のような真っ白な心で、まずは向き合っていきたいなと思っております。
ーー雪子は、ガラスがひとつのキーワードになると思いますが、ガラスについての何かイメージがあれば、教えていただけますか。
今パッと湧いたのが、宝塚音楽学校です。入学してすぐにお掃除場所が定められて、私はバレエ教室の掃除を担当していたのですが、ガラスというか、窓や鏡などを、命がけで磨いていたんです。指紋ひとつ、汗の跡ひとつ残してはならないと、美しく磨いていました。本当に曇りひとつない、傷ひとつない美しいものであらねばという印象がすごくあります。だから、雪子の体がガラスでできているというところも、大事にするもの、磨けば磨くほど何か美しさで応えてくれるもの、でも儚くて負荷をかければ簡単に崩れてしまうもの、みたいな印象がすごくあるんです。体がガラスというのは、なかなか想像できないですが、初めての役柄に今からワクワクしています。
ーーこれまでのご経験で活かせそうなことと、今回学びたいことはどんなことありますか?
歌劇団で培ってきたものが私の大部分を占めていますが、歌劇団独特のお芝居や表現の仕方というものが、どの舞台にも通用するとは限りません。卒業後はその癖というか特徴を緩和させていく作業にエネルギーを割いてきました。そんな中で、ようやくここ数年、舞台上にただ立っているだけで、自分の体重をちゃんと感じられるようになってきました。セリフを真実味を持って発することができたときの「心と身体が一致した」という感覚を、持てるようになってきました。仮に卒業して間もない頃に、ストレートプレイに携わらせていただいたとしたら、多分ものすごくつまずいていたと思います。でも、今こうしていろいろな経験を積ませていただいて、念願叶って、出演が決まり、すごくいいタイミングでご縁が巡ってきたなという想いが強いです。これまで出演させていただいた舞台は、ミュージカルが主でしたが、学んできたことは、本作できっと活かすことができると思います。でも、そこばかりに頼ってしまうと、自分で自分をがんじがらめにしてしまう気がするので、わからないことは「わかりません」と伝えて、新人の気持ちで向き合っていきたいなと思っています。
ーー宝塚のご出身の方は、役作りを丁寧に徹底的にされるイメージがあります。稽古が始まる前にやろうと思うことや、今までやってきたことを活かして、役作りの中に入れていこうと思っていらっしゃることがあれば教えてください。
逆に徹底的に役作りすることを止めようと思っています。追求してきた経験があるので、その結果どうなるかも理解できます。凝り固まった考えや、きちんと作り上げたい気持ちが強ければ強いほど、ガチガチになってしまって、ふと見渡せば周りに散らばっているヒントを拾いにくくなってしまうんです。新しい世界に飛び込むという意味でも間口を広く、常に呼吸をして前に進んでいきたいと思います。言うは易しで、本当に難しい挑戦になるんですが、今まで出演させていただいた舞台でも、ふっと力が抜けている瞬間こそ、「いいと思う」とお言葉をいただくことが多かったです。自分では足りていないような感覚や、不思議だなと思うこともありましたが、客観的に見ていただいてこそ成立するのが舞台なので、自分の感覚に頼らないで、そういうお声を大事にして、「力を抜こう」というのが課題のひとつです。
ーーポスタービジュアルの、欠けた3本の指を前に出す姿や表情など、咲妃さんの新しい一面を垣間見た印象を受けましたが、撮影時のエピソードや印象に残ってることがありましたら教えてください。
初めて感じる空気が漂っていて、最初から最後までびっくりしました。まずメイクは素顔に見えるよう本当に必要最低限のものだけで、新井健生さんという世界で活躍されているヘアメイクさんが担当してくださいました。安田さんと咲妃が、性別は違えどすごく似た双子の印象を、ビジュアルから持ってもらえるように、髪型も安田さんにできる限り近づけて、付け毛をしていただいたり、髪の毛の質感とか、あっという間に仕上げていただいて、すごいなと。そして、舞台のみならず、映像界でも大変著名な伊藤佐智子さんに、新しくお衣装を新調していただき、その衣装に腕を通せる喜びも感じました。プロフェッショナルな方々が、撮影にも心血を注いでいらっしゃる、とても緊張感が漂っている現場で、ものすごい集中力で、撮影があっという間に終わりました。
また、手を印象的に見せようと、手の角度とか、すごく細かく何カットも撮影したんですが、あまりにも手だけが印象に残るのも違うと金さんからお話をいただいて、さじ加減がすごく難しかったです。際立たせたいけれど、際立ち過ぎて欲しくないというか。
ーー宝塚やミュージカルを観劇されている方にとって、ストレートプレイのハードルが高い場合もあると思いますが、その魅力はどのように考えていますか?
登場人物の心情が濃密に伝わってきたり、フィクションだということをついつい忘れてしまうのがストレートプレイ、演劇の世界だなと思います。私もたくさん舞台を拝見する機会がありますが、身構えず、客席に座って、ただただお芝居に没入できる時間がたまらなく好きで、心が痛くなる作品も、温かくなる作品もありますが、自分のいろいろな感情を容赦なく引っ張り出してくれるのが、ストレートプレイの魅力だなと感じます。
ーー宝塚からのファンの方にとっては、異次元に誘われるのではと思っていらっしゃるかもしれません。咲妃さんは歌のイメージも強いかと思いますが、宝塚時代からのファンの方に、ここを見てほしいというのがあったら教えてください。
ストレートプレイといえど、歌わせていただきます。きっと楽しんでいただけるんじゃないかなと思います。長らく応援してくださっている方々からいただくお手紙には、「咲妃みゆさんを応援していなかったら、知らずに人生が終わっていたかもしれない、そんな世界に連れて行ってくれることがとても嬉しいし、刺激的だし、人生が豊かになります」というお声も本当にたくさんいただいていて、それが私のモチベーションにも繋がりますし、この仕事をしていてよかったなと思う瞬間のひとつです。今回も、台本を読ませていただく限り、驚きがたくさん詰まった作品になると思いますので、その驚きをそのまま感じとって、持ち帰っていただけたら嬉しいです。
https://news.tv.rakuten.co.jp/2023/06/sakihimiyu02.html 【後編】咲妃みゆさんインタビュー:『少女都市からの呼び声』出演
作品情報
THEATER MILANO-Zaオープニングシリーズ/COCOON PRODUCTION 2023
『少女都市からの呼び声』
手術台に寝かされている男―田口(安田章大)。親友の有沢と、その婚約者のビンコが付き添っている。看護婦は有沢に、田口の体の一部を取り除くか迫る。その体の一部とは、誰の物ともわからぬ髪の毛。有沢が看護婦からの問いに窮する中、田口は、妹を探しに夢の世界へと旅に出た。
田口は妹である少女―雪子(咲妃みゆ)と再会を果たすも、彼女は右手の指を3本も失ったばかりか、フィアンセであるフランケ醜態博士(三宅弘城)によって体をガラスに変える手術を施されていた。隙を見て雪子を連れ出そうとする田口だが、指を手に入れるまで出られないと雪子は言う。田口は、己の2本の指を切り落とし雪子に渡したが、フランケ醜態博士に阻まれ銃で撃たれる。そこで気づく。最後に切るはずだった指は、己の体のことだったと。そして、雪子は有沢の前に姿を現し――。
●作
唐十郎
●演出
金守珍
●出演
安田章大、咲妃みゆ、三宅弘城、桑原裕子、小野ゆり子、細川岳
松田洋治、渡会久美子、藤田佳昭、出口稚子、板倉武志、米良まさひろ、
宮澤寿、柴野航輝、荒澤守、山﨑真太、紅日毬子、染谷知里、諸治蘭、本間美彩、河西茉祐
金守珍、肥後克広、六平直政、風間杜夫
【東京公演】
2023年7月9日(日)~8月6日(日) THEATER MILANO-Za(東急歌舞伎町タワー6階)
【大阪公演】
2023年8月15日(火)~8月22日(火) 東大阪市文化創造館Dream House 大ホール
Rakuten TVで視聴する
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