そして、後編ではRakuten TVで配信している宝塚歌劇団の作品から、おすすめ作品をセレクトしてもらい、それぞれのおすすめポイントを語ってもらった。
(文・写真:岩村美佳)
https://news.tv.rakuten.co.jp/2023/03/manakireika02.html 【後編】愛希れいかさんインタビュー:『マリー・キュリー』出演
――この作品に入られる前に、キュリー夫人はどんなイメージでしたか?
小学生の時に読んだ、伝記のキュリー夫人のイメージでしかなく、そこまで深く知らなかったというか。もちろんすごい人だとは分かっていましたが、伝記を読んだ時の印象しかありませんでしたので、「あのキュリー夫人なんですよね?」と、ちょっとびっくりしました。
――そこから台本を読まれて、作品についてはどう感じていらっしゃいますか?
「ありえたかもしれない」もう一人のマリー・キュリーの物語、とチラシにもサブタイトルが書かれていますが、今回は史実以外の部分があります。「ファクションミュージカル」という言葉を今回初めて聞きましたが、Fact(事実)とFiction(虚構)を混ぜた言葉で、海外で使われることもあるそうです。本当はこうだったらよかったなとか、こうだったらどうなっていたかなと思いながら台本を読むと、より劇的にドラマチックに描かれている印象です。もちろんマリーの人生がどうだったかという史実も読ませてもらって、大きく違うところもあるんですが、演出の鈴木裕美さんと「ここは違うよね」と話しながら、この台本でしっかりお客様に楽しんでもらえるように作っています。
清水くるみちゃんが演じるアンヌによって、マリー自身が変わっていったり成長していったりと、アンヌがマリーにとても大きな影響を与えます。それによって彼女がノーベル賞を取るまでに、ラジウムという物質を見つけていくだけではなく、人間として成長するドラマも描かれています。一瞬「難しい」と思ったんですが、それだけじゃなくて、とてもメッセージ性のある作品だなと思いました。
――「難しい」というのは、科学分野でノーベル賞を受賞するような女性を演じる、というところですか?
お客様の中にも、分かる方はもちろんいらっしゃるとは思うんですが、調べても調べても分からないことがものすごく多いので、そこは本当に単純に難しいです。科学的な要素ももちろん重要ですが、感情や背景、身近な人たちとの関係性、研究にかける情熱といったところを大切にしています。
――傾ける情熱や、マリー自身の個性や資質、ある意味没頭するような人でないとこういうことはできないと思うのですが、彼女自身についてはどういう風にアプローチしていますか?
(取材日:2月下旬)昨日、最後まで稽古がついて、二幕をざっと通してみました。今日からまた一幕に戻って稽古していくんですが、その中でもうちょっと見つかるかなと思っています。裕美さんがよく使う言葉では、「オタク」という表現が分かりやすいなと思っています。
コミュニケーションが苦手だったり、彼女が生きてきた過程で、ポーランド人であること、女性であることで、いろんな障害がこの時代にはあったと思いますし、作品にも描かれて、コンプレックスがとてもあると思うんですね。自分の名前をポラックと、ポーランド人を卑下する言葉として言われていたんですが、自分の名前を見つけたいというところから始まっていきます。コンプレックスを持っていて、人とのコミュニケーションがなかなか上手くいかないのは、天才であり、人とは違う思考になってしまうからだとは思います。一幕では、コミュニケーション能力が少し低いように、わざと作っています。そこでアンヌと出会って、どんどん人間らしくなったり、人の気持ちを考えるようになっていくんですが、総じて「オタク」ですね。
――役柄のここが大事だとか、クローズアップしたいところはどこですか?
まずはラジウムという放射性物質を見つけるに当たっての、ラジウムに対する執着だったり、自分が産んだ子のように可愛がるところ、それによって少し判断が鈍るんですよね。そして一幕のラストでは、ラジウムを自分だ、ラジウムと自分は一心同体だという風に言うシーンがあるんですが、とにかく執着するマリーが、それにかける想いみたいなものを、ものすごく重要視していて、ある意味狂気的な感じになってしまうんです。だからこそ、ノーベル賞を受賞するまでのことができるんだと思いますし、犠牲にしているものももちろんたくさんあります。娘に対してだったり。そこに関しては私も「どうしてこうなってしまうのかな」と思うところがあります。
ですが、それくらい彼女にとっては大切なことで、台詞にもあるんですが、「どうしてあなたは科学をやっているんですか?」という問いに対しての答えが全てなんだなと思います。科学に対する好奇心が全てを動かしているところが、彼女自身としては、一番かなと思います。あとは夫のピエールや、イレーヌという娘に対する想いが変わっていく、成長していくみたいなところは大事にしていきたいです。
――エリザベートや、マリー・アントワネットなど、史実の女性を演じられるご経験を多くお持ちですが、実在の人物を演じられる時と創作の人物を演じられる時で、意識されることで何か変化はありますか?
私がやらせてもらう役は、有名な方が多く、資料が沢山ある人物が多いので、私よりもお客様のほうがよく知っていらっしゃることは、とても多いと思います。そこから自分も調べていくのですが、「これはアントワネットじゃない」、「これはエリザベートじゃない」と思われないようにするのがひとつです。お客様が入り込めないのが一番嫌なので、イメージやポイントなどは絶対に抑えたいと思っています。そして実在していた方ということで、もちろん資料を読んで、そこに近づこうとするんですが、実際にいらっしゃった方なんだと思うと、何よりも想いが違いますよね。だから、エリザベートも、アントワネットも、キュリー夫人も「演じさせてもらいます」「生きさせてもらいます」という想いが一番違うかなと思います。
――音楽も含めて、この作品のミュージカル的魅力をお聞かせください。
音楽がとても素敵だなと思っています。最初に譜面を見た時は、難しくて全然分からなくて。韓国ミュージカルは割と難しいことが多いですよね。最初に譜面を見た時に、リズムも変拍子ですし、譜読みにすごく時間がかかって、どうしようと思ったんです。でも、稽古に入って歌稽古をして、何回か歌ったらすっと入ってきて。もちろん全然できていないことはあるんですが、大体の大きなメロディはすぐに入ってきて、すぐに口ずさめるキャッチ―な曲だなと。
なので、多分お客様も印象的に楽曲が浮かんだりするんじゃないかなと思うくらい、曲が素晴らしいです。マリーの天才的な頭脳を表しているような、人が思いつかない音に行く感じで、半音上がったり半音下がったりするのですが、聴くと刺さる。そういう意味では、作曲家さんの意図は分からないですが、マリーの人が思いつかないようなところを表している曲もあるなと感じます。ミュージカルとしては、音楽がやはり大切なので、そこはすごく魅力かなと思います。
そして、日本の演出としては、韓国版よりダンスシーンなど、身体的に何かを表現しているシーンが、多くなっている印象はあります。視覚的にも楽しめるというか。セットはとてもシンプルに作っていますが、役者さんが何かを表現するという部分が、面白くなるんじゃないかなと思っています。
――お稽古場の雰囲気や、カンパニーの皆さんとお話されたことで、印象的なことを教えてください。
台詞を覚えたり歌を覚えたりすることが、すごく早いペースで進んでいて、私自身、科学用語をしゃべる役は初めてなので、いっぱいいっぱいになってしまって、皆さんとお話できるタイミングがなかなかなくて。多分皆さんも、それぞれに今自分のやることと向きあっている状態なので、あまり話せていないねとお話ししたくらいで。シビアなシーンが多く、終わった後はすごい疲労感になるくらい、とても壮大なミュージカルですが、稽古場の雰囲気はすごく明るいと思います。くるみちゃんも、ピエール役の上山竜治さんも、近い存在のおふたりですし、竜治さんが大体楽しくしてくださっているので、とても和やかにさせてもらっています。
――宇月颯さんとは、宝塚の舞台以来の共演ですね。いかがですか?
すごい巡り合わせというか、嬉しいなと思います。そして、いてくださることの安心感ですね。私のことを全部わかってくださっているので、何も言わなくて、肩をトントンとしてくれたり、「大丈夫?」と言ってくれたり、何も言っていないのに「こうでしょう?」と言ってくれたりするのは、あの時代を一緒に過ごさせてもらったからだろうなと、つくづく思います。
――同じカンパニーにいる安心感が大きいですね。どんな役の関係性ですか?
宇月さんはラジウム工場の作業班長の役で、直接台詞を交わしたりはありません。マリーはアンヌを含めて、工員たちと実際には会っていなくて、本当は見えていないのですが、見えているという演出があったりします。
――この時代を女性が何かを極めていくということは、すごく大変だったと思うのですが、その作品を今上演することの、時代性みたいなものをお感じになるところはありますか?
とてもありますね。この作品の前に『エリザベート』をやらせていただきましたが、彼女をとても現代的だと捉えていて、それを重要視して演じようと思っていました。でも、そういう人がいたからこそ、今があるのだと思います。『マリー・キュリー』は、『エリザベート』よりもさらに時代背景が描かれていて、女性が科学者というのがあり得ないくらいだった世界で、貫いてやり遂げた姿がしっかり描かれているので、女性の皆さんにはエールを送れるのではないかなと思いますし、背中を押せるようなメッセージもあると思います。
――お客様にお伝えしておきたいことはありますか?
一番は、ファクションミュージカルだということ。全部が本当ではないけれど、ひとつの作品として楽しんでもらえるようにと思って作っていますので、そこを推しています。あとは、科学という難しさや、シビアな部分ももちろんあって、この題材をミュージカルにするんだと私もすごくびっくりしましたが、ファクションミュージカルにしていることによって、ドラマチックになっていたりもしますので、科学が分からない人にもメッセージ性があります。裕美さんが「単純に好きなことをやってみればいいんじゃない?やったら何か見つかると思うよ」というエールを送れるのではないかとおっしゃっていました。何かを成し遂げることは、好きから始まって、好奇心になっていく。夢やこれからの道に迷っているような若い方たちが観て、そういう風に感じてくれたらいいなと思っています。作品が伝えたいことはそれだけではないですが、気軽に観に来てもらいたいなと思います。
――好きという部分からというと、愛希さんご自身とも重なりますか?
分野は全然違いますが、共感できるなと思います。
――この新しいミュージカルを楽しみにされている方に、メッセージをいただけますでしょうか?
日本初演ということで、本当にこの作品を最高のものにしたいと思い、みんなで力を合わせてお稽古していますので、ぜひ劇場に観にいらしてしてください。
https://news.tv.rakuten.co.jp/2023/03/manakireika02.html 【後編】愛希れいかさんインタビュー:『マリー・キュリー』出演
作品情報
ミュージカル「マリー・キュリー」
19世紀末、マリーは、大学進学のため、パリ行きの列車に乗っていた。そこで出会ったアンヌと希望に胸を躍らせ、当時、少なかった女性科学者として、研究者のピエール・キュリーと共に新しい元素ラジウムを発見し、ノーベル賞を受賞する。ところが、ミステリアスな男・ルーベンが経営するラジウム工場では、体調を崩す工員が出てきて……。
●脚本
チョン・セウン
●作曲
チェ・ジョンユン
●演出
鈴木裕美
●翻訳・訳詞
高橋亜子
●出演
愛希れいか、上山竜治、清水くるみ
能條愛未、宇月颯、清水彩花、石川新太
坂元宏旬、聖司朗、高原紳輔、石井咲、大泰司桃子/屋良朝幸
【東京公演】
2023年3月13日(月)~3月26日(日) 天王洲 銀河劇場
【大阪公演】
2023年4月20日(木)~4月23日(日)梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ